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鈴木タケル

#33『JLPGAツアー選手全体のスコア決定要因』

JLPGAツアーは、年間39試合あり前半戦が終わり後半戦に入っています。
前半の19試合終了時点での平均スコア決定要因を調査し、現代の女子ゴルフツアーにおいて、よい成績を残すために必要な要素を調査します。
必要な要素を明確にすることで、何を強化するべきか、そのために必要な練習はどのようなものかを決める練習プランの作成や試合ごとに違うコース攻略に役立ちます。
また、これからツアーで活躍しようとする選手にとって、ツアー選手全体のスタッツを知ることで自身のラウンドスタッツと比較し、劣る項目を明確にすることで、普段の練習では何に注力するべきかを明確にすることができます。

JLPGAツアー選手のラウンドスタッツは公式ホームページに詳細に記録されいます(引用1)。
たくさんあるスタッツ項目の中から過去の先行研究を参考にして重要とされる項目を7つ選択して分析をおこないました(引用2,3,4)。
平均スコアを予測する項目として、
①平均バーディー数(1ラウンド当たりの平均バーディー数)
②パーセーブ率(パーかそれより良いスコアを獲得する率)
③パーオン率(パーの打数から 2 を引いた打数以内でグリーンに乗せること)
④平均パット数(パーオンしたホールの平均パット数)
⑤ドライビングディスタンス(ティーショットの平均飛距離)
⑥フェアウェイキープ率(フェアウェイをキープしたティーショットの率)
⑦リカバリー率(パーオンしないホールでパーかそれより良いスコアを獲得する率)

以上の7項目を分析しました(表1)。

表1 2024年前半戦まで全97選手の平均と中央値(約49位の値)、最上位と最下位  (引用1から作表)

7つの項目から平均スコアを予測する重回帰分析という統計手法で分析してみると、7つの項目から平均スコアを99%説明できる結果となりました(R2=0.993)。
有意な意味をもつ項目として、①平均バーディー数②パーセーブ率が選択され、この2項目だけでも99%平均スコアを説明できる結果となりました(R2=0.992)。
このバーディー数とパーセーブ率はスコアに直接的に関係する項目であるため当然の結果であり、この2つの項目をどのように高めていくかということには、あまり役立たない分析ともいえます。
ただし、この分析からいえることは、パーを取りパーセーブ率と高めることはもちろんだが、ラウンドあたりのバーディー数を増やすということを念頭においた目標設定や、コース戦略においてリスク&リワード(危険と報酬)のバランスを適度に選択することの重要性については参考になると考えられます。

高い説明力をもつ①平均バーディー数と②パーセーブ率を除き、直接的にスコアに関係しない③~⑦項目についても同様に分析してみると、この5項目だけでも99%近く平均スコアを説明できる分析結果となりました(R2=0.987)。
なかでも、③パーオン率④平均パット数⑦リカバリー率が有意な意味をもつ項目として選択されました。
最も説明力が高い項目は③パーオン率となり、平均スコアを約68%説明しています。
また、平均スコアと強い負の相関関係が確認されました(R=-0.83)。
つまり、パーオン率が高いほど平均スコアは低い、言い換えればパーオン率をあげるほど平均スコアはよくなる、ということがツアー全体の傾向として明確になりました(図1)。
もちろんパーオンだけが全てを決めるわけではないが、パットは選手間での差が小さくなっていると考えられ、比較的差がつきにくい項目として考えられます。
あるいは、ドライバーは、最高で264ヤード、最小で219ヤードと飛距離の差は大きく感じられるが平均スコアへの影響が少ないといえます。

図1 パーオン率とスコア平均の相関(引用1から作図)

“Bomb & Gouge”という戦略は、ティーショットでボールを可能な限り遠くへ飛ばすこと(Bomb:爆弾)を優先し、その結果ボールがラフに入ってしまった場合でも、力任せにボールを打ち出すこと(Gouge:えぐり出す)を指します。
つまり、この戦略は飛距離を最優先し、精度は二の次という考え方を表しています。
そのため、ボールがどこに着地するかよりも、どれだけ遠くに飛ばすことができるかが重要となります。
そして、ボールがラフに入った場合でも、力強く打ち出すことでピンに近づけるという戦略です。USPGAツアーでは、現在でもこの戦略が有効のように思われますが、韓国の女子ツアーでは、この戦略の中核をなすドライビングディスタンスが2018年を境に重要ではなくなったと報告しています(引用5)。
その理由として、2018年以降はコースの総距離が長くなってきたことを理由に挙げています。
女子韓国ツアーでは、2012~2017年はこの戦略が非常に有効だったが、意外なことに2018年以降に総距離が長くなるにつれてドライビングディスタンスが成績に影響を与えなくなったと分析しています。
さらに今後コースの総距離が伸びていくと予想される現状において、Bomb & Gouge戦略はもはや効果的ではないと結論付けています。
これは、ツアー選手全体の飛距離が伸びていることにも起因すると予想されますが、いずれにせよ、ツアー選手は、正確なショットとパット、優れた戦略など、より総合的なゴルフスキルを持つことが求められています。

  • ①平均バーディー数②パーセーブ率を高めることを視野に入れた長期練習計画をたてる
  • ③パーオン率④平均パット数⑦リカバリー率が重要なことから、ショット、パット、アプローチの全てが重要であり一点突破あるいは一点豪華主義的な考え、または得意なものだけ伸ばせばよいという考えは、ツアーでは適用できないと予測される
  • 現代のツアーでは、パーオン率が最も重要でありパーオンするためのドライバーショットを含めたショットの調子が平均スコアを大きく左右するため、ショットの調子周期を試合に合わせるピーキングや連戦による疲労からくるショットの不調などを考慮したリカバリーやレストなどの計画的なツアー転戦戦略が必要となる

引用文献

  1. JLPGA公式ホームページ内スタッツ https://www.lpga.or.jp/stats/2024/lpga/top
  2. Fried, H. O., Lambrinos, J., & Tyner, J. (2004). Evaluating the performance of professional golfers on the PGA, LPGA and SPGA tours. European Journal of Operational Research, 154(2), 548–561.
  3. Chae, J. S., Park, J., & So, W. Y. (2018). Ranking prediction model using the competition record of ladiesprofessional golf association players. Journal of Strength and Conditioning Research, 32(8), 2363–2374.
  4. Suzuki, T.; Sheahan, J.P.; Okuda, I.; Ichikawa, D. Investigating factors that improve golf scores by comparing statistics of amateurgolfers in repeat scramble strokes and one-ball conditions. J. Hum. Sport Exerc. 2020, 16, 853–865.
  5. June Kyu Choi.Sang-Hyun Lee.Philsoo Kim. Effectiveness of Bomb and Gouge Strategy in Korean Ladies Professional Golf Association Tour. (2024) Journal of Golf Studies 18(2)