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鈴木タケル

#44『アームターンタイプVS.ボディターンタイプ②』

「ダウンスイング時の腕と体幹動作の違い」

腕を返して飛距離を伸ばす方がいいのか、腕のターンを抑えて方向性を重視した方がよいのかという問題に対して、Phil Cheetham氏によって2014年に発表された論文では、どちらのスイングタイプでも飛距離や方向性に差がないことが明らかにされています(引用1、#43)。
また、どちらのスイングタイプを採用したとしてもトッププロとして成功する可能性があることを示しています。
しかしながら、ダウンスイング時に腕の使い方や体幹動作には明確な差異があるため、整合性のある練習目的や助言が大切となることを指摘しています。

この研究では、インパクトに向けてクラブの捻り、腕を大きく返すグループをHi-HTVグループとして呼称していますが、海外ではローラー(回転)と一般的に呼ばれ、一方、腕を返さず押すような動きの打ち方のLo-HTVグループは一般的にプッシャー(押す)とタイプ分けすることが多いようです。
それと同じような意味で、それぞれオープンフェイスやクローズドフェイスと表すこともあるようです(図1)。
クラブの捻じれ回転を600°/秒を基準に以下の2つのタイプに別けています。

図1.両タイプを象徴するトップオブスイングのフェース向きと様々な呼称

右打ちであれば、リードアームは左手となり、左手首の回外の動きにそれぞれに差があることが明確にされています。
ローラー(Hi-HTV)タイプでは、リードアームの手首の回外角速度が高速であり、1881±286°/S(degrees per second)、一方、プッシャー(Lo-HTV)では、1295±256°/Sと少ない結果となっています(表1)。
1800°/秒(degrees per second)」とは、1秒間に1800度 回転する角速度を示します。
回転運動でいうと、1回転=360度 なので、1800 ÷ 360 = 1秒間の間に5回転に相当します。
もちろん、ゴルフのダウンスイングでは、1秒も時間がかからないので5回転するわけではありません。
ダウンスイングは、トップからインパクトが約0.2~0.25秒、腰の高さあたりからは、約0.1以下と考えると、1800°/秒は、0.1秒で180°回転することになり、ダウンスイング途中からフォロー途中の腰から腰の高さでおおよそ180度の手首の回外がおこることになります。
興味深いのは、プッシャー(Lo-HTV)タイプの場合であっても、手首の回外が半分やそれ以下になるわけではなく、3分の1程度の減少に過ぎないということです(約1800°/sに対し約1200°/s)。

表1 各タイプにおけるリードアームの手首回内角速度 引用1より作表

それぞれのタイプでは、飛距離と方向性には差がなく、どちらのタイプでもトッププロになれる可能性があることが明確にされた一方で、動きには明確な差があるため、スイングタイプに沿わない助言や指導、誤ったスイング方法の志向性には注意が必要です(図1、表2)。
例えば、プッシャー(Lo-HTV)では、インパクト時の腰や肩の開きが大きく目標方向に大きく回転しています。
このようなタイプには、回転を止めて腕のターンを薦めることや、インパクトでは両足でジャンプするように地面反力を使ってなどというアドバイスは合わない可能性もあります。
また、逆パターンのローラー(Hi-HTV)タイプでは、前傾角を保ってインパクトすることや腰のリードを強調するような動作の指導は、効果性が低くなる可能性があります。
大切なのは、スイングタイプとの整合性がある動作を目指し、練習や指導することだと考えられます。

表2 タイプ別インパクト時の骨盤と胸郭角度

図1 それぞれのタイプでの体幹動作の差異

この研究から、どちらのタイプのスイング方略を採用してもプロのような高度なスキルに達することができることを証明し、どちらのタイプでもクラブヘッドスピードやドライバーの方向性に有意な差は確認されず、Hi-HTVでもLo-HTVでも飛距離や方向への優位性はないと考えられました。
プロゴルファーが異なるHTV戦略(高いHTVと低いHTV)を用いても、精確なスイングが可能であることを示しています。
また、体力や身体要素との整合性のある指導を行うことが重要であると示唆されています。
さらに、この研究をおこなったCheetham氏は、その後、2018年にグリップの違いがスイング動作に及ぼす影響についても発表しています(#8『グリップ・握り方の重要性②』参照)。
その後の発表も考慮すると、ローラー(Hi-HTV)タイプでは、スクエアグリップやウィークグリップとの相性がよく、プッシャー(Lo-HTV)では、ストロンググリップとの相性がよいことを示唆しています。

  1. Cheetham, P. J. (2014). The relationship of club handle twist velocity to selected biomechanical characteristics of the golf drive (Doctoral dissertation, Arizona State University).