#45『パターに関するプラセボ効果』
「肯定的伝染(Positive Contagion)」
まったく同じ10分間のレッスン動画をみたとしても、指導者の資格レベルを事前に伝えるだけで指導の信頼性や指導技術などの評価に影響を及ぼしてしまうことを#31で紹介しました。
このような、事前に受けた情報や行為などにより、学習者の心理にゆがみが生じ、先入観やバイアスが生じることをプラセボ効果、あるいはノッシーボ効果として紹介しました。
今回は、ゴルフ道具のパターでのプラセボ効果に関する興味深い論文を紹介します(引用1)。
実験参加者
ゴルフ経験のある41名の大学生が実験参加者でした。
平均ゴルフ経験年数は6.18±3.26年であり、ゴルフ経験など技術レベルに差がないように2つのグループに分けました。
通常群とプロ使用群の2つに分けました(図1)。

通常群とプロ使用群の違い
実験に使用する道具のパタークラブについての説明に差をつけています。
説明なしの通常群には、使用するパターに関する説明は一切なく実験に参加しました。
一方、説明ありのプロ使用群には、ベン・カーティス選手という2003年全英オープン優勝選手の使用したパターだと伝え、彼の功績(USツアー3勝など)を詳しく伝えてから実験をおこないました(図2)。
なお、実際の実験で使用したパターは、どちらのパターも本人は使用していない同一のパターでした。

実験方法
2.13mの距離から10球を打ち、何球カップインしたかを実験のテストに採用しています。
また、10球テストの直前にカップの大きさをパソコン画面上に想起させてカップの大きさを円で作成してもらった後に10球テストをおこなっています(図3)。

実験結果
プロ使用群では、10回テストのうち5.30±2.36回がパットに成功、通常群では、3.85±1.95回のパットの成功にとどまり、約1.5回プロ使用群ではパットの成功回数が多くなるという結果になりました(図4)。
また、打つ直前にカップの大きさを想起させてパソコン画面上に円を作成する課題では、プロ使用群では通常群より、約1cmカップを大きく知覚していたこともわかりました(図5)。


肯定的伝染(Positive Contagion)
実験では、ベン・カーティスが使用していた道具を使うことで彼の試合での活躍などのプラスイメージが沸き、その肯定的伝染(Positive Contagion)は知覚にも作用し、カップを大きく感じることができ、そのためにパットの成功数が増えたと考えられました。
このような肯定的伝染(Positive Contagion)は、信念と期待から生じる治療効果として知られるプラセボ効果と似た現象として説明することができます。
通常プラセボ効果を誘発するには、偽薬や偽の手術を施す必要があります。
しかしながら、この実験では道具の所有者や道具の起源を伝えることで実験参加者は道具を評価し、普通の道具に対する強力な価値を与えたことでポジティブな効果をもたらしました。
ゴルフ道具では、プラセボ効果や肯定的伝染(Positive Contagion)を誘発する材料は個人により異なり、価格、元の所有者、高名なクラブ製作者、好きなメーカー、科学的な説明、プロ使用モデル、などあげればキリがありません。
しかしながら、学術的に認められたヒトの思い込みや先入観をうまく利用することで上達にも、対照的に上達の障壁にもなりうることもあり、こういった事実を知識として知っておくことがまずは必要だと思われます。
引用文献
- Lee, C., Linkenauger, S. A., Bakdash, J. Z., Joy-Gaba, J. A., & Proffitt, D. R. (2011). Putting like a pro: The role of positive contagion in golf performance and perception. PLoS ONE, 6(10), e26016. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0026016