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鈴木タケル

#7『グリップ・握り方の重要性①』

国内・国外の隔てなく、いつの時代でもスイング方法には魅力的なネーミングがつけられ私たちゴルファーに希望を与えてくれます。
「最新○○理論」「科学的××打法」など、今度こそは自分に合った打ち方に出会えたと思わせてくれるものばかりです。
しかしながら、私の知る限りゴルフスイングで証明された科学的エビデンスはまだ十分ではなく、万人にとって有効な画一的方法は未だ明確にされていないとされています。
研究分野で確認されている十分な根拠は、インパクトの瞬間でのクラブフェースの向きや動きに加えて打点がボールの飛び方(結果)に強い影響を与えることです(文献1.2.3)。

グリップの握り方が変わるとインパクトが変わる!

スイングの方法について語られることは多くてもグリップの握り方について語られることは少なく、その重要性については軽視されているように感じます
グリップの握り方を変えるだけでクラブヘッドスピード、クラブフェースの向き、クラブパス、などに影響を与えることができるとしたら、グリップについてもっと考えるきっかけになりそうです。
グリップについての研究は極めて少なく、これまで過去の名手達によるエピソード・ベースで語られてきました。
グリップについて単純ながら実践への応用性が極めて高いケルン体育大学(ドイツ唯一の体育大学)の研究グループによる興味深い研究をご紹介します(文献4)。

グリップ1ナックルでアドレスのフェースは15°変わる

この研究では練習用の握る形のついたグリップを用意しています(図1)。

図1 練習用のグリップ

左手をグリップした時に見えるこぶしの数を目安とすると1ナックルで15°グリップを回転させる必要があることを示しています。
ナックル2つ分で30°シャフトを回転させることになり、これは時計の文字盤でいうと5分の角度となります。
この実験では、クラブフェースが真っすぐな状態でグリップの入れ方を変えることで強制的に0ナックルや4ナックルに握れるように工夫されています。
したがってクラブフェースが真っすぐな状態でそれぞれのグリップの違いの差がわかるように実験デザインされています。
Weakグリップ側(1ナックル+15°と0ナックル+30°)、Strongグリップ側(3ナックル-15°と4ナックル-30°)それぞれスクエアグリップの2ナックルよりもひねってグリップがセットされていますが実験の結果はクラブフェースがそのまま±15°~30°ズレたわけではありませんでした。

図2 グリップポジションによるナックル数(こぶしの数) 文献4より引用改変

Strong=左 Weak=右 クラブヘッドスピードはスクエアが最も速く、Strong優利

実験では、一般レクリエーション男女ゴルファー28名を対象におこなわれました。
その結果、インパクトでは定説通りStrongグリップでは左にフェースが向きやすく、Weakグリップでは右にフェースが向きやすい結果となりました。
クラブヘッドスピードは、2ナックルの基本が最も速くStrongグリップが優利でWeakグリップでは不利に働きました(図3)。

図3 インパクト時のフェース角度とクラブヘッドスピード 文献4より引用改変

実践への応用( Practical application)

(1)値を正確に利用するというよりはStrong=左、Weak=右にフェースが向きやすい傾向があるという程度の解釈に留める

(2)グリップのナックル数の影響は非対称性があり、フェース角度とクラブヘッドスピードはスクエアグリップからStrong側へは比較的変化は少ないが、Weak側へは、変化が大きい。したがって最大出力を必要とするショットでは間違えるならStrong側がよい

(3)今回の実験では、最大出力を要するドライバーのみの結果であったがより繊細な制御が求められるアプローチショットではどちらが優利なのかは不明なため、安易にStrongグリップが優利だともいえない、余程の確信がない限り2ナックルの基本を推奨する

■引用文献

1.Jorgensen, T. P. (1994). The physics of golf. Springer-Verlag New York
2.Wood, P., Henrikson, E., & Broadie, C. (2018). The influence of face angle and club path on the resultant launch angle of a golf ball. In Multidisciplinary Digital Publishing Institute Proceedings (Vol. 2, No. 6, p. 249).
3.Henrikson, E., Wood, P., Broadie, C., & Nuttall, T. (2020). The Role of Friction and Tangential Compliance on the Resultant Launch Angle of a Golf Ball. In Multidisciplinary Digital Publishing Institute Proceedings (Vol. 49, No. 1, p. 27).
4. Morgan D‘Arcy, Sinikka Heisler, Eike Quilling, Heiko K. Struder & Anja Chevalier (2021) The effect of grip position on golf driving accuracy and distance, Journal of Sports Sciences, 39:11, 1287-1294, DOI: 10.1080/02640414.2020.1865612