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鈴木タケル

#8『グリップ・握り方の重要性②』

ショットを評価する場合、ボールの停止位置である結果を評価するのが学術的な研究ではよく説明される方法です(引用1)。
ボール停止位置はインパクト時のクラブの挙動が大きく影響しますが、この要因に関しては弾道測定器などによりエビデンスが示されつつあります。
次にインパクトに影響を与える1つの要因としてゴルフスイング(動き)を評価することになります。
さらにその前にスイングの前提条件となるグリップとアドレスがありますが、その重要性を示すエビデンスはあまり知られていません。
むしろグリップとアドレスよりもTPIや4スタンス理論に代表される、さらに前提となる身体条件の方が注目されています。
しかしながら、こちらも統計的に十分な根拠を示す程の論文は発表されていません。
ショットの結果(ボール停止位置)を決める要因としてどれも重要な要因ですが、今回は#7に続きグリップがその後のゴルフスイング(動き)に与える影響について考えます(図1黄色→)。
実はここに示された要因だけでゴルフスコアを説明することは難しく、図1に示したインパクトの要因、スイング(動き)の要因、グリップとアドレスの要因、身体的な要因を改善したとしても、ボール停止位置の改善がなされるだけで、それがそのままスコアを縮めることに繋がるのか?に関してはさらに複雑な要因を考慮しなくてはなりません。
したがって正確に伝えるのであれば、今回示した要因が改善することでボール停止位置が改善され、それがスコアを縮める要因の1つになる可能性がある、という程度になります。

図1 ボール停止位置(結果)の決定要因における概略図

グリップの握り方が変わるとその後の動きに変化!

2018年に行われた世界ゴルフ学会ではPhil Cheetham氏がグリップの違いがその後の動きに及ぼす影響について発表しています(引用3)。
チータム氏といえばXファクターやTPIバイオメカニクス担当としても知られ世界を代表するゴルフ研究者の一人です。
今回は、論文にはされていない文献ですが影響力の大きいチータム氏の研究グループからの発表を紹介します。
この研究では、10名のエリートゴルファー

①通常のグリップ
②30度クラブフェースを閉じた状態(ストロンググリップに相当)
③30度クラブフェースを開いた状態(ウィークグリップに相当)

3種類のグリップを各5球合計15球打ちました。
その結果、2つの項目で通常グリップとの統計的な有意差があったことを報告しています。
1つ目の項目は、インパクト時の胸郭の側屈で通常のグリップとストロンググリップでは約3°傾きが大きくなります(図2)。
2つ目の項目は、インパクト時の飛球方向への骨盤のスウェイ(移動)で、通常グリップよりもウィークグリップでは約2cm移動が少なくなります(図3)。
この研究で興味深い点は、同一人物にグリップの違いという刺激を与えたことに対してスイング(動き)に反応があったという点です。
一般的にスイング解説では、選手の違いにより採用するグリップの握り方が違えばスイング(動き)も違うということはよく知られた事実ですが、この実験では同一人物内においてもグリップの違いがその後の動きに変化をもたらしました。
エリートゴルファーが実験参加者として設定されていましたが、グリップの握り方が変わったことで経験的にボールを上手く打つための動きの適応が現れたと推測できます

図2 通常グリップvs.ストロンググリップ (アドレス時とインパクト時の側屈の差は通常グリップの時よりも大きくなる)
図3 通常グリップvs.ウィークグリップ (アドレス時とインパクト時の骨盤移動の差は通常グリップの時よりも小さくなる)

実践への応用( Practical application)

(1)それぞれの握り方に適したスイング(動き)が存在することが推測され、グリップの握り方を無視して動きの修正や理想とする動きを目指すことは避けた方がよい
(2)図1が示すように身体論や身体的要因からスイング(動き)に飛躍して考えるのではなく、身体的要因からグリップの握り方を熟慮し動きに繋げることが望ましい(グリップの握り方から論じられている場合もあるがもっと重要視されてもよい チータム氏もそのような思いからこの研究に至っていると考えられる)
(3)過度なストロンググリップでは側屈と骨盤の移動を大きく強いられ身体への負担が増大すると推測され、既に腰痛その他が発症している場合は再考の余地がある

■引用文献

1.Phillip Cheetham(2014). The Relationship of Club Handle Twist Velocity to Selected Biomechanical Characteristics of the Golf Drive.
2.Titleist Performance Institute HP https://www.mytpi.com/improve-my-game/swing-characteristics
3.The World Scientific Congress of Golf 2018 HP Abstracts https://www.golfscience.org/wp-content/uploads/2020/06/Cheetham-Grip-Study-2018.pdf