#10『アドレスボール位置の影響②』
ボール位置を体から遠くした場合と近くした場合の説明
ボール位置が目標方向、またはその反対へボール1つ分(約4㎝)移動して打った時のアドレスの変化については#9『アドレスボール位置の影響』で説明しました(図1)。
今回は、図2のようにボール位置を通常の位置より体から遠くした場合と近くした場合について説明します。
ボール位置の違いを研究するSung Eun Kim氏の2つの論文を元に考えていきます(引用1.2)。
体から遠いor近いボール位置では矢状面上の姿勢に影響が大きい
この研究には、11名の男性右打ちプロゴルファーが参加してます。
個々の実験参加者が通常ボールを打つ時のボール位置を基準にして、そこからボール位置を『遠い』または『近い』状態にして5番アイアンで実験を行っています(引用1)。
その結果、矢状面(飛球線の後方)から見たアドレス姿勢に影響がありました(図3)。
図では、デフォルメして表現していますが、実際の図内A~G項目の数値は表に示しています(表1)。
この実験では、全部で21にも及ぶ項目を調査していますが統計的な差が確認できたのは主に図内A~G項目の7項目でした。
表1 通常ボール位置とのアドレス変数差(A~G項目) 引用1より作表
ボール位置の変化はアドレス全体へ波及し影響を及ぼしている
ボールの大きさは約4㎝であるが、遠い近いのボール位置変化も飛球線方向へのボール位置の変化(#9)同様にアドレスに影響を及ぼしていました。
遠いボール位置に対しては、前傾姿勢を深め、膝や足首の曲げ角度を増加させることで遠いボール位置に適応したアドレス姿勢を取っていました。
その結果、頭の高さと手の高さは低くなっていました。
近いボール位置に対しては概ね対称的な適応を行っていました。
ただし、通常ボール位置との変化の量は近いボール位置の方が比較的大きく、近いボール位置へ適応することの方が難しいと考えられました。
また、G項目のCOP: center of pressure(圧力中心)は、見た目には観察が難しい項目であるがこの実験では、遠いボール位置ではつま先よりに、近いボール位置ではかかとよりに圧力中心が移動することを報告していることは興味深い点です。
実践への応用( Practical application)
1)ボール位置が遠い側にずれると前傾や膝や足首の曲げ角度が増加するため、アドレスで前傾姿勢がとれない又は、膝が棒立ちになるなどの人にとってはボール位置を遠くすることで改善できる可能性がある。
2)ボール位置を遠い側にすると圧力中心はつま先に移行するため、通常のアドレスがかかと側になる傾向の人にとってはボール位置を変えることで改善できる可能性がある
3)近いボール位置では、上記1.2と逆の現象が起こると予想される。ただし変化には非対称性があり、近いボール位置を要求する場合は変化が大きいため、ボール1つ分ではなく、ボール半分単位で移行練習をすることで副反応を予防できる。
4)アドレス姿勢に何らかのエラーがある場合は、その点を直接的に指導することもよいが、ボール位置を変更することだけで目指す姿勢に導ける可能性がある。また本実験はプロの結果であり、アマの指導に応用する場合は対象者をさらに観察する必要がある。
■引用文献
1.Sung Eun Kim,Young-Chul Koh,Joon-Haeng Cho,Sae Yong Lee,Hae-Dong Lee,Sung-Cheol Lee.(2018)Biomechanical Effects of Ball Position on Address Position Variables of Elite Golfers. Journal of Sports Science and Medicine (2018) 17, 589-598
2.Sung Eun Kim,Jangyun Lee,SaeYong Lee, Hae?Dong Lee,Jae Kun Shim,&Sung?Cheol Lee1.(2021) Small changes in ball positionat address cause a chain effectin golf swing. Scientific Reports 11(1)