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鈴木タケル

#13『腰と肩の捻転差 ”x-factor”』

X-Factor:エックスファクターとは?

スイング動作の計測技術は、近年益々進歩をみせています。
具体的には、今まで研究室内でたくさんのカメラを用意し大掛かりな設定が必要でしたが、最近は衣服に装着するだけで計測できるウェアラブルセンサーが発達しています。
動作計測は、より身近に容易になり実験室外でのフィールドテストも可能になってきています。
一方でスイング動作の研究は、先行する過去の研究のなかで、ある程度は調べ尽くされています。
計測器がより身近になっていくなかでどう活用するかが重要となります。
そのための最初の段階として過去の研究を調査することが必要です。
今回は、スイング中の腰と肩の捻転差に関して説明します。

X-Factor:エックスファクターとは

1992年最初にX-Factorという概念を紹介したのは、米国ゴルフインストラクターのJim Mclean氏とされ1990年代から提唱されています。
X-Factorとは、トップオブスイング時点で身体を頭上から見た場合、腰のラインと肩のラインにできる回転の差を表します(図1)。
エックスファクターという呼称は、肩のラインと腰のラインが頭上から見た場合Xの字体に見えることに由来しています。
バイオメカニクス研究では、いつどの場面で何を計測するかが重要であり局面分けと呼ばれています。
1990年代は、トップオブスイング時の腰と肩の捻転差に焦点があてられ研究がおこなわれていました。

X-Factor stretch:エックスファクターストレッチとは

2000年にはトップオブスイング時だけではなく、ダウンスイング直後のエックスファクターが注目されました。
TPI:Titlist Performance Instituteのバイオメカニクス担当アドバイザリーボードに名を連ねるPhillip J.Cheetham氏によって提唱されたのがX-Factor stretchです。
これは、ダウンスイング開始直後に関係する筋や腱をストレッチさせることでX-Factor が増加する現象です。
ダウンスイング直後に腰部の回転を引き起こすために腰部と胸部の回転方向を分離させ、筋や腱の伸長-短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle:筋腱を伸ばした状態から収縮することで出力を増加させる)を利用してクラブヘッドスピードをより高速化させます。
このCheetham氏の研究結果では、プロはトップオブスイング時にX-Factorが48°でしたがダウンスイング直後には57°と約9°(19%)増加しました。
一方で非熟練者のゴルファーでは増加率は13%と少なく、プロと非熟練者の間で有意な差が報告されています(引用1)。

Peak X-factor:ピークエックスファクターとは

2011年には、局面に関係なくスイング中にX-Factorが最大化する時点での角度とクラブヘッドスピードとの関係性が調査されました(引用2)。
この調査では局面に関係なくスイング中にX-Factorが最大化した時点での角度をPeak X-Factorと定義しています。
このPeak X-Factorが出現するタイミングは上記Cheetham氏の研究同様にダウンスイング直後でした。
この研究では、Peak X-Factorとインパクト時点X-Factorの2項目で特にクラブヘッドスピードとの高い相関関係が確認されています。
ここで紹介した研究以外にもX-Factorとクラブヘッドスピードに関してエビデンスが次々と発表され、次第に飛距離を伸ばすための方法としてX-Factorを最大化することに焦点を絞った打法(より多くねじる)や、トレーニング方法(より多くねじれるように)が指導者やプレーヤーに浸透していきました。

X-Factorと腰痛

2019年には、X-Factorと腰痛に関する論文が発表されX-Factorのデメリットやリスクに関する情報を提供しています(引用3)。
この論文では、タイガーウッズの腰痛病歴を紹介しつつX-Factorを強調する現代スイングへ警笛を鳴らしています。
1990年~2020年あたりまでX-Factorの有効性に焦点があてられ、X-Factorを最大化するような指導が推奨されてきました。
ウッズが最初にPGA賞金王になったのが1997年、その後10回の賞金王となるのですが最後の年が2013年、その前後を含め約20年間もの長い期間をハイレベルでのゴルフを維持してきました。
偶然にもウッズの活躍期間を証明するような形でX-Factorの研究も発展し、ウッズの飛距離や強さを裏付ける根拠として扱われてきました。
しかしながら、最近2020年代に入りゴルフスイングと腰痛に関する研究報告が多くなってきています。
若年層のプロゴルファーが腰痛を発症することもあり、ウッズが活躍した20年間を考えると現代活躍するゴルファーの20年内の腰痛発症率次第では、ゴルフスイングのあり方も大きく変革を求められる可能性があります。
今後もハイパフォーマンスと怪我のリスクについては研究が継続されていくと考えられ、注意深く情報を調査する必要がありそうです。

図13-1 トップオブスイング時のX-Factor腰に対する肩の捻転差
図1 トップオブスイング時のX-Factor腰に対する肩の捻転差
図13-2  X-Factor stretch:ダウンスイングスイング直後X-Factor増加
図2  X-Factor stretch:ダウンスイングスイング直後X-Factor増加

■参考文献

1.Cheetham, P.J., Martin, P.E., Mottram, R.E. and St. Laurent, B.S. The importance of stretching the X Factor in the golf downswing. In: Book of Abstracts 2000 Pre-Olympic Congress. International Congress on Sport Science Sports Medicine and Physical Education. Brisbane Australia 7-12 September 2000

2.David W. Meister, Amy L. Ladd, Erin E. Butler, Betty Zhao, Andrew P. Rogers, Conrad J. Ray, and Jessica Rose. Rotational Biomechanics of the Elite Golf Swing: Benchmarks for Amateurs. Journal of Applied Biomechanics, 2011, 27, 242-251

3.Corey T.Walker, Juan S.Uribe, Randall W.Porter.(2019). Golf: a contact sport. Repetitive traumatic discopathy may be the driver of early lumbar de-generation in modern-era golfers. Journal of Neurosur-gery: Spine