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鈴木タケル

#14『メスプラッツ(測定・情報提供ユニット)・トレーニング』

メスプラッツ(測定・情報提供ユニット)トレーニングとは?

近年はゴルフに関する計測器が益々進歩する一方で、それを扱う選手や指導者が計測器を活用した指導方法を紹介する動画あるいは書物は皆無に等しいです。
おそらく現在は、計測器によって得られたデータからゴルフクラブの評価及び調整やスイングやパッティングストロークをデータにより現状認識する程度に留まり、その後どのように改善に導くかについて多くは論じられません。
測定・情報提供を指導法として確立するような考え方はゴルフでは歴史が浅く、むしろゴルフとは縁遠い旧東ドイツのスポーツ科学に起源があります。
旧東独では、1970年代から様々な種目で計測器が開発され、研究と測定・指導を同時に行い多くの成果を上げました。

メスプラッツ(測定・情報提供ユニット)トレーニングとは

ドイツ語でMESS『測定』Platz『場所』という意味があり、測定器を活用した練習方法をMess Platz Training:メスプラッツトレーニングといわれています。
現代の計測器の発達に伴い、スイング練習や指導にとてもマッチする概念なので紹介します。

内在的フィードバックと外在的フィードバック

メスプラッツトレーニングを理解するには、まずフィードバックについても知る必要があります。
フィードバックとは、運動の結果として実行者に戻された情報を指します。
そして、フィードバックは2つに分類され、誤解を恐れず簡単に表現すると内在的フィードバックとは、学習者本人が感じ取れることができる情報です。
対照的に外在的フィードバックとは、計測器や映像などのなんらかの人工的手段によって学習者に戻される情報です(図1)。

具体的方法

メスプラッツトレーニングでは、計測器から得られる情報を即時に提示することが重要です。
ただし、単に結果を確認するだけではなく、結果を見る前にスイング実施者本人に今のスイングは?どんな感じがしたか?良かったか?悪かったのか?自身が改善しようとしている点が治っているか?時にはメタファー(比喩表現)などを尋ね、なるべく詳細な運動感覚を語らせた後に計測結果を確認します。
つまり、計測器などを利用した外在的フィードバックだけ行うのではなく、その前に内在的フィードバックを聞き出し、その育成を促すことがメスプラッツトレーニングでは最も重要となります。
スキル成熟が高次になればなるほど、選手自身の内在的フィードバックが優れていることもわかっています
また、主観と客観のズレを少なくできることもこのトレーニングの利点です。
そうすることで、上手くできたときの運動感覚を言語化できれば、次にその動きを再現しやすいというわけです(図2)。

運動言語化の有効性

例えばクラブヘッドスピードを上げる練習を行ったとします。その時、速く振れた時の運動感覚を言語化しておきます。
人により感覚は違って構わないのですが、「ダウンスイングで腰を切る感じ」「腕をおもいきりターンさせる感覚」「左足をダウンスイング直前に強く踏み込む」など人それぞれあると思います。
継続してゴルフをしていくなかで、クラブヘッドスピードが落ちてきた時に言語化しておいた運動感覚を道しるべとして比較的容易に以前のクラブヘッドスピードを取り戻す可能性は高まるのです。
このような運動感覚のことを「動感」といい、いわゆる熟練者のカンやコツとして扱われています。この他にメタファー(比喩)があります。
これは、左足をダウンスイング直前に強く踏み込むという上記の動感から、「左足の踏み込みでレンガを割る感じ」や「左足の踏み込みは熱した鉄板に足を乗せるように鋭く早く」などといった比喩表現のことで、動感やメタファーを言語化しておくことでプレーヤー自身が自ら微細な技術の調整をおこなえるようになるだけでなく、選手が繊細な身体の動きを表現したい時に動感やメタファーを介して指導者との共通言語として身体の感覚を共有できることも指導効率をあげる利点となります。
今後、計測器の進歩の一方で運動の言語化が不必要になるわけではなく、むしろ重要性はより一層高まるでしょう。

図14-1 フィードバックの分類とゴルフでの例
図1 フィードバックの分類とゴルフでの例
図14-2 メスプラッツトレーニングのイメージ図
図2 メスプラッツトレーニングのイメージ図

■参考文献

1.リチャード・A・シュミット 運動学習とパフォーマンス 大修館書店
2.書斎のゴルフ VOL45 p93~p97 メスプラッツトレーニング 日本経済新聞出版社
3.ライプチヒスポーツ科学交流協会HP内 コレスポ図書館