#17『打ち直しショットが何回あればパープレーできるのか?』
セルフスクランブルというルールを採用した研究を紹介
ゴルフをする人であればパープレーでラウンドすることは誰もが目標とするスコアです。
しかしながら、生涯で一度も達成されることもない人が大半を占める程ゴルフは難しいスポーツとして知られています。
そのためパープレーで周るためにゴルファーは、道具を選び、技術を改善し、様々な試行錯誤を繰り返して上達する方法を探っています。
スコアの本質はどこにあるのだろうか?まずはどんな形式であれパープレーできるルールの条件は?という疑問から著者が研究を行ったセルフスクランブルというルールを採用した研究を紹介します(引用1)。
セルフスクランブルとは?
通常のゴルフルールでは打ち直しショットは許されず1つのボールを打ち繋いでホールアウトを目指します。
それ故に1度のミスショットも許されずゴルフは精神的にも技術的にも難しいとされています。
そこで、全てのショットを2回打って結果の良い方のボールを採用することで技術的にも精神的にも負荷を軽減してラウンドするルールを採用しました。
いわゆるチーム戦で行われるスクランブルルールを自分1人で行います。
毎ショット2回打ち、結果の良い方のボールをその都度プレーヤー自身が選択し、ホールアウトを目指します。
この研究では、同様に毎ショット3回打つルールについても検討しました。
実験参加者
男性ゴルファー10名
9ホールの平均スコア46.5±4.8ストローク
生涯ベストスコア83.3±6.9ストローク
1Wのクラブヘッドスピード40.0±1.8m/s
プレー方式
①ノーマルラウンド (NR) 通常通り1球でプレーを行う
②セルフスクランブル2ルール (SC2)毎ショット2回打ちベストボールを選択していく
③セルフスクランブル3ルール (SC3)毎ショット3回打ちベストボールを選択していく
セルフスクランブルルールに基づくラウンド設定
グリーン以外の場所では全て1クラブレングスのプリファード・ライルールが採用されました。
これは、2球目、3球目を打つ時にボールの位置や状態を正確に再現することが難しいこと、また、ボールが木の根元に止まるなどの運と不運による偶発的要素をできる限り排除するためです。
1組の人数は、NRでは4人まで、SC2では3人まで、SC3では2人までとして安全性とプレー時間に配慮しました。
そのため平均的な9ホールプレー時間で終了することができました。
なお、本研究では疲労の問題から1日に行うラウンドは1種類9ホールまでとして、同じコースの9ホールPar36を使用して複数日に分けて実験をおこないました。
SC2.3では、1球目の打球結果から狙いを変更することや使用クラブを変更することを許可しました。
ノーマルラウンドVS.セルフスクランブル②VS.セルフスクランブル③
9ホールの平均スコア46.5±4.8の10名のグループは、SC2のルールでは、38.9±2.6と約7.7ストロークの減少がありました。
さらに、SC3のルールでは36.0±2.5と約10.6ストロークのスコア減少が確認されました(図1)。
図1 各ラウンド方式によるスコアの比較
考察
本実験では、本来のゴルフルールを変更し負荷軽減することでどの程度のスコア改善効果が見込めるのかが明確になりました。
一般的に新しい動作を手に入れようとした場合、その動作の難しさを軽減し運動経験を積ませ、疑似成功体験を得る練習が行われています。
その後に新しい動作の習得に有利に働くためです。
例えば、自転車の補助輪や鉄棒逆上がりの補助器具、水泳のビート板などがあります。
今回の場合は、スイング動作の補助ではなくて、ルールの制約を変更することで負荷を軽減し、39または36でラウンドできる疑似成功体験を積むことが可能ということが確認されました。
これまで私たちが体験してきた他の動作の補助器具と同様に、ルールの負荷軽減を施したラウンドではあるが、良いスコアを出せた疑似成功体験は、本来の1球ラウンドにも活かせると考えられます。
もし、このような負荷軽減が無意味というのであれば、これまで様々な動作で行われてきた負荷軽減による練習方法を全て否定することになります。
また、今回おこなったルールの制約を変更するような学習方法は、制約主導型アプローチ:Constraints-led Approach(CLA)として近年注目されています。
ゴルフ分野における制約主導型アプローチはまだ無限にあり、今後も世界の研究者から報告が増加していくと思われます。
結論
1)NRと比較してSC2では7.7打、SC3では10.6打の負荷軽減効果
2)スコア以外の統計結果は、SC2とSC3はスコア以外に有意差がないためSC2練習が有効
(SC2以上の数を増やしても練習効果が薄くなるのでSC2で十分)
3)疑似成功体験を積むことで本来の1球プレーに好影響を与える
(現状の技術や飛距離でも戦略判断と反復性向上などでスコア向上の可能性がある)
実践への応用
1)SC2、SC3では少ないラウンド数で技量の評価判断が可能になる
(プレーヤーの最高に近いパフォーマンスを9ホールで判断できる)
2)効果、疲労、安全性を考慮するとSC2ルールを採用して9ホール3名までが適当 3)ゴルフ倫理に配慮して、ゴルフ場には必ず許可を取って行うべきである
■引用文献
Takeru Suzuki, John Patrick Sheahan, Taiki Miyazawa, Isao Okuda, Daisuke Ichikawa
Journal of Human Sport and Exercise 16(4) 853-865 2020年