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鈴木タケル

#22『障害予防の観点からの左打ち練習』

ドライバーショット1回のフルスイングは身体にものすごい負担になっている?!

本来右打ちの人が、非利き側である左打ちの練習することはよく知られています。
2023年シーズンに好成績を継続している岩井明愛プロがJLPGAツアー公式インスタグラム内で左打ちのスイング動画がアップされ左打ち練習の意図について語っています(引用1)。
その理由として「バランスを意識して…」と言っています、おそらく身体のバランスを整えること、右打ちだけの練習による偏りを解消する目的でおこなっていると考えられます。
今回は、障害予防の観点から非利き側の練習をする意義について説明します。

プロゴルファー1日の練習は約300球

非利き側での練習について説明する前に、ゴルファーがどのくらい身体に負担をかけているのかを知る必要があります。
カナダのゴルフ協会に相当するGolfi in Canadaでは、プロゴルファーの過去の練習量を調査しています(図1,引用2)。
この調査によると、11歳~16歳の時に少ない人で1100球、多い人で2200球を1週間にこなすようになり、プロもしくはエリートゴルファーとなる23歳あたりでは1週間の練習量は2100球以上となり、1日に約300球の練習をおこなうことになります。
プロとして続ける場合は、1日に300ショットを長期にわたり継続することになり、利き側のみでの練習では何等かの片側性障害が身体に表れても不思議ではありません。

図1 各年齢による1週間の最大と最小の練習球数 (引用2より改変)

1スイング=タックル1回の負担

プロになるためには、10歳を超える頃から週に1000球を超える練習が求められます。
20歳を超えると更に練習量は増えていきます。
成人のドライバーショット1回のフルスイングでは、脊椎に約7500ニュートン(約765㎏)もの圧縮力が加わることが報告されています(引用3)。
これは、恐ろしいことにアメリカンフットボールのタックルに相当します。
ボディコンタクトのないスポーツのゴルフですが、ラグビーやサッカーなどコンタクトスポーツ同様の衝撃を継続的に受けるという意味では怪我のリスクが高いといえます。

図2 ゴルフスイングの脊椎への負担 (引用3より作図)

アマ=35%、プロ=55%が腰痛

上記のような理由から、アマチュアゴルファーとプロゴルファーの隔てなくゴルファーにみられる障害は背中や腰に最も多く、アマでは35%、プロは55%の人が腰痛や背部の痛みを訴えています(引用4)。
また、ゴルファーにおいて腰痛の病歴を有するグループと無いグループの身体的特徴を比較した研究では、バックスイング側への体幹回転角度が有意に低いことが示されています(引用5)。
つまり、関節可動域や筋力の左右非対称性が腰痛の要因となる可能性が高いのです。

障害予防のための左打ち練習

益々若年齢化が進むプロゴルフ界において、低年齢から長期にわたる片側だけの打球練習が原因となり、腰痛その他による選手生命の短期化が懸念されます。
特にJLPGAツアーの低年齢化は著しく、25歳以下であってもすでに腰痛を訴え治療のための休養を余儀なくされる場合も増えています。
冒頭で紹介した岩井明愛プロもこのようなツアー内の現状から障害予防のために左打ち練習を取り入れていると考えられます。
将来を先読みした予防策に加えて、オフシーズンには左打ちでのラウンドを予定するなど楽しみながら左打ち練習を取り入れているあたりに益々の活躍が期待できます。
今後、国内および海外ツアーでも男女の隔てなく低年齢からゴルフを専門とする選手が増えると予想されます。
若年からの腰痛その他の予防策として非利き側での練習を取り入れる選手が増えていくことを願います。

引用文献

(1)LPGA公式インスタグラム内
https://www.instagram.com/reel/CwPbWVdNFqP/?utm_source=ig_embed&utm_campaign=loading
(2)Long Term Player Development Guide for Golf in Canada (2012). pp 55
(3)Corey T. Walker, Juan S. Uribe, Randall W. Porter (2019). Golf: a contact sport. Repetitive traumatic discopathy may be the driver of early lumbar degeneration in modern-era golfers. Journal of Neurosurgery: Spine.
(4)Fradkin, A. J., Windley, T. C., Myers, J. B., Sell, T. C.,& Lephart, S. M. (2007) Describing the epidemiology and associated age, gender and handicap comparisons of golfing injuries. International journal of injury control and safety promotion, 14(4): 264-266.
(5)Tsai, Y. S., Sell, T. C., Smoliga, J. M., Myers, J. B.,Learman, K. E., & Lephart, S. M. (2010) A comparison of physical characteristics and swing mechanics between golfers with and without a history of low back pain. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 40(7): 430-438.