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鈴木タケル

#23『障害予防ための左打ち練習②』

左右差をどのくらい許容するか?

本来右打ちの人が、非利き側である左打ちの練習を実施することはトッププロを対象に度々メディアなどに取り上げられ、よく知られた事実です。
しかしながら、どのような効果が期待できるのかに関しては、選手の主観的な効果を中心に語られ、客観的データに基づいた研究はゴルフでは皆無に等しく、調査されていません。
そこで、著者らは2020年に日本ゴルフ学会関東支部の研究助成を受けて、まずは、同一人物内での右打ちと左打ちのクラブヘッドスピード(CHS)の差を調査して平均的な左右差を明らかにしました。

左打ちはCHSが12%減

調査したのは、プロ10名(PG)とアマチュア20名(AG)の合計30名の男性ゴルファーでした。
いずれも左右CHSの差を相対的な値で計算した場合、利き側の右打ちと比較して左打ちは12%減であり、右打ちの88%程のCHSしか記録できないことが明らかとなりました(図1,引用1)。
この調査では、全ての実験参加者の利き側は右打ちであり、左打ちは非利き側でした。
右打ちのCHS平均は、アマは39.15m/sでありプロは44.82m/sと当然ながらプロのCHSはアマを上回りました。
左打ちのCHSでも、アマは34.29m/sでありプロは39.35m/sとなり右打ち同様にプロの左打ちCHSはアマを上回りました(表1)。
偶然にもアマの右打ちとプロの左打ちのCHSが同等の約40m/sを記録しているのは興味深いことです。

図1 左右クラブヘッドスピードの差

表1 左右クラブヘッドスピードのスキルレベルごとの平均値 (m/s)

左右クラブヘッドスピードの差は個人差が大きい

左右のCHSを比較するために、この研究ではラテラリティインデックス:LIという独自の指標を用いて分析をしました。
LIの算出方法はシンプルで、左打ちCHSを右打ちCHSで割り算して%表示します。
例えば、左打ちCHSが40m/s、右打ちCHSが同じく40m/sであれば、左右差はなくLIは100%となります。対照的に左打ちが40m/sで右打ちが50m/sであれば、40÷50=0.8となりLIは80%となり左右差が大きいということになります。
LIを基準に相対的な左右差を見た場合、プロとアマの双方で平均的な左右差は88%となりました。
しかしながら、個人差は大きく左右差が少ない人で100.62%と本来の右打ちのCHSを上回る人も存在する一方で、左右差が大きい人では66.33%であり、個人差が非常に大きいという事実も判明しました。

表2 AG と PG のラテラリティインデックスの結果 (%)

CHS左右差はLIを基準に88%前後が目安

本研究では、腰痛とLIの関係性についてまでは臨床的に調査できていません。
つまり、左右CHSに差異が大きい場合に腰痛を発症する可能性が高いのか?あるいは、CHSに左右差がない場合に果たして本当に腰痛が発症しないのか?という問題です。
左右スイングの非対称性が腰痛との間にどのような関係があるかは今後に研究の余地がありそうです。
ゴルファーにおいて腰痛の病歴を有するグループと無いグループの身体的特徴を比較した研究では、バックスイング側への体幹回転角度が有意に低いことが示されています(引用2)。
つまり、関節可動域や筋力の左右非対称性が腰痛の要因となる可能性が高いと考えられます。
しかしながら、左右身体特性を完全に対称とする必要性にも疑問が残ります。
では、どの程度までの非対称性なら許容されるのか?という問いに対して、今回の調査からゴルフスイングの左右CHS差を対象とした場合、少なくとも平均以上のLIを維持することをお薦めする、つまりLIは88%以上を目安にして極端な左右CHS差をなくすことで腰痛その他のリスクを回避できると考えます。

引用文献

  1. 鈴木タケル 一川大輔 奥田功夫 北徹朗 庭瀬敏和 坂井昭彦,ゴルフの科学,{1},volume {34},{2022}ゴルフの運動障害予防やスイング改善のための左右クラブヘッドスピード比較研究
  2. Tsai, Y. S., Sell, T. C., Smoliga, J. M., Myers, J. B.,Learman, K. E., & Lephart, S. M. (2010) A comparison of physical characteristics and swing mechanics between golfers with and without a history of low back pain. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 40(7): 430-438.