記事を探す
閉じる

鈴木タケル

#25『パフォーマンス向上のための左打ち練習効果②』

長期的に左打ち練習を行うことでの効果可能性について

前回(#24)は、左打ち練習をすることで本来の優勢側である右打ちスイングスキルにどのような即時的効果があるのかをクラブヘッドスピードを対象に説明しました。
今回は、長期的に左打ち練習を行うことでの効果可能性について考察していきます。

平均年齢20歳で10年以上のゴルフ経験を持つゴルファーを対象に体幹筋力の左右差を調査した先行研究では、同じ年代のゴルフ未経験者と比較すると体幹筋量の左右差が大きいことが明らかにされています(引用1)。
具体的には、右打ちゴルファーでは左側の外腹斜筋と内腹斜筋と腹横筋の腹部側壁と大腰筋に左右差が大きく、意外なことに右打ちゴルファーではスイングをリードする左側の筋量が多い結果となっています。
一方で、腹直筋は右側の筋量が多い結果となっています。
しかしながら、このような傾向はゴルフ経験のない人達には確認されませんでした。
したがって、左打ち練習を継続して行うということは体幹筋量のアンバランスを改善することになり、フィジカルに変化が起きれば当然スイングスキルにも何らかの影響が起こることは考えられます(図1)。
その変化をできる限りポジティブに移行させる方法が今後左打ち練習を取り入れる上での課題となります。

図1 ・右打ちだけの練習では変化は少ない(上段)
   ・両サイドの練習ではフィジカルが変化しスキルにも何らかの変化がおこる(下段)

著者自身が調査を行った研究では、プロとアマ合計30名を対象に右打ちクラブヘッドスピード(R-CHS)と左打ちクラブヘッドスピード(L-CHS)の関係性を分析したところ、左打ちCHSが速い程に右打ちCHSも速いという関係性を示す相関係数は、0.769と高い相関が明らかになりました(引用2)。
これは同時に左打ちCHSは、右打ちCHSを59%予測していることもわかりました(図2)。
過去2016年に発表されたPGAツアー選手の体力要素と右打ちCHSとの相関関係を調査した研究では、スクワットジャンプの高さとCHSに最も高い相関(r=0.817)が確認されたことを報告しています(引用3)。
その他、ローテーショナルメディシンボール投げの距離や座った状態でのメディシンボール投げの距離との関係性も調査され、いずれも高い相関関係が確認されています。
つまり、遠くに投げることや高くジャンプすることができる程に右打ちCHSも速いという関係性が示されています。
このような背景から、これらのトレーニングは重視され、現在も幅広く実施されていると推測されます。
しかしながら、著者らが調査した左打ちCHSと右打ちCHSの間にも同等に高い相関関係が確認されていることから、左打ちCHSを上げることで右打ちCHSの向上を目指すトレーニングも有効と考えることもできます(図3)。
しかしながら、今回の調査では左打ちCHSと右打ちCHSとの因果関係までは調査されていないため今後更なる研究が必要です。

図2 左右クラブヘッドスピードの相関関係

図3 体力要素と右打ちクラブヘッドスピードとの相関関係 (引用2と3から作図改変)

1.Izumoto, Y., Kurihara, T., Suga, T., & Isaka, T.(2019) Bilateral differences in the trunk musclevolume of skilled golfers. Plos one, 14(4): e0214752
2. 鈴木タケル 一川大輔 奥田功夫 北徹朗 庭瀬敏和 坂井昭彦,ゴルフの科学,{1},volume {34},{2022}ゴルフの運動障害予防やスイング改善のための左右クラブヘッドスピード比較研究
3. Lewis et al. (2016) Determinants of Club Head Speed in PGA Professional Golfers.