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鈴木タケル

#27『最も変動の大きい測定項目』

現代では、クラブヘッドの挙動が即座にわかる計測器の発達により様々な計測項目が瞬時にフィードバックされます。
その中からどの項目を意識して改善していくかは、プレーヤー個人の特性により違います。
飛距離を伸ばしたいのか、または、方向性を安定させたいのかなどにより改善すべき項目は変わってきます。
しかしながら、ゴルファー全体に共通することもあります。
項目により安定しやすいものと対照的に変動が大きい項目があります。
定着しやすい項目とどんなに練習しても常時変動が起きやすい項目を理解することで練習計画の作成や試合へのピーキングまたは練習効果の確認などの際に役立つと考えられます。
今回は、著者研究グループが2022年に発表した論文から測定項目別の変動の大きさについて紹介します。

著者らがおこなった実験では、15球のドライバーショットを測定しています。
15球打った結果から、平均を算出し、その平均値からのバラツキをみるために標準偏差を算出して、さらに変動係数(標準偏差÷平均値)を求めました。
簡単にいえば、15球打った時にどの項目が1球ごとの変動=バラツキが大きいのかを調査しました。

本実験では、14名の男性アマチュアゴルファーと14名の男性プロゴルファーに自身のドライバーで15球を全力で打球してもらい、以下の5項目を測定しました。
①クラブヘッドスピード
② インパクト時のフェース向き
③ クラブパス
④フェース・トゥ・パス(②から③を引いた値)
⑤アタックアングル(入射角)

表1に示す結果を注意深くみると、アマとプロで変動の大きい順番が共通しています。
変動が大きい順に並べてみると
1位 フェース・トゥ・パス
2位 インパクト時のフェース向き
3位 クラブパス
4位 アタックアングル
5位 クラブヘッドスピード

このようになり、安定しやすい項目と常に変動が起きやすい項目はアマもプロも共通していることがわかりました。

実験結果から最も変動係数が大きいのはフェース・トゥ・パスとなっています(表1)。
フェース・トゥ・パスは空中でのボールの曲がりに影響する要素です。
しかしながら、項目に2つの要素が入っているためこのような結果となっています。
フェース・トゥ・パスは、②インパクト時のクラブフェースから③クラブパスの値を引き算した値ですので、これをそれぞれきり離して考えた場合、最も変動が大きいのは②インパクト時のフェース向きです。
次に変動が大きいのが③クラブパスです。
インパクト時のクラブフェースの向きがボールの飛び出し方向に大きく影響するために、2018年著者が参加した世界ゴルフ会議では「クラブフェースはスイングの王様」として扱われていました。
それほど重要視され、スイングや結果の良し悪しを左右する大切な要素です。

表1 測定項目の対象者別平均変動係数(数字が大きいほど変動が大きい)

最も変動が起きやすくその日の調子で簡単に変わってしまうのがクラブフェースの向きという事実はゴルファーであれば体感的に理解できていると思います。
したがって、試合直前であればインパクト時のクラブフェースの向きに注力して練習した方がよさそうです。
逆にクラブヘッドスピードは、最も変動が少なくその日のうちに向上することは難しいということです。
したがって改善向上を試みようとした場合には、変動係数の少ない順に改善に要する期間も長くなるということが推測できます。
つまり、クラブヘッドスピードであれば、おそらく0.5年~3年単位で改善計画を立てる必要がありそうです。
逆にクラブフェースであれば、その日のうちにも変わってしまいますので直前での調整でも効果を得られるかもしれません。
また最も安定させることが難しいのはクラブフェースの向きということから、これを安定させるための近道はないに等しく日々クラブに親しんで調整するほか方法はないのかもしれません。
クラブパスとアタックアングルは同等の変動係数であり、ひとたび感覚をつかめば比較的安定させることができる項目といえます。
とはいえ、改善には最低でも月単位(1~12カ月)の改善計画を立てる必要がありそうです。
各項目の変動係数を知ることでスイング改善計画や試合へのピーキングやその他にも役立たせることができそうです。

1.Relationship Between Variability in Clubhead Movement Using a Doppler Radar Launch Monitor and Golf Strokes Across 15 Driver Shots 
Daisuke Ichikawa, Takeru Suzuki, John Patrick Sheahan, Taiki Miyazawad, Isao Okuda
International Journal of Kinesiology and Sports Science 10(4) 7-15 2022.