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鈴木タケル

#34『運動学習における2つの方法 伝統的アプローチと制約主導アプローチ』

ゴルフには習得しなければならない技術が沢山あります。
例えば、同じショットでもドライバーアイアンショットアプローチショット、また各ショットには高いや低い、スピンの多い少ない、左右の曲がり幅や傾斜でのショットなど複雑な要素を含みます。
指導者は、ゴルフに求められる複雑かつダイナミックな環境に適応する技術を教えるために、数多くの要素を賢明かつ慎重に管理して指導する必要があります。
今回紹介する運動学習に関する、伝統的導入方法と制約主導導入方法(CLA)の主要な原則を比較した論文では、その複雑さから「コーチングは、厳密な科学ではなく、芸術であり、熟練したコーチはより広いコーチングプロセスの複雑さを考慮しながら、オープンで適応性があり柔軟なアプローチが必要である」として、伝統的な方法と現代的な方法を統合して指導することの重要性を示しています(引用1)。

伝統的な導入方法では指導者は、模範モデルや事前規定的なスタイル(武道でいう型に近い)を用いて指導をおこないます。
直接的な言語教示や身体ガイダンスや身体プロンプト(誘導)などと呼ばれる身体に直接触れて正しいとされる動きをガイドし誘導する、いわゆる手取り足取りという指導を含み、単純な反復練習をベースに特定のテクニックの再現性を高めることを目的としています。
したがって、「スキル獲得」と表現されます。
この方法は、運動学習と制御に関する伝統的な表現に基づき、スキーマ理論によって説明されています(引用2)。
スキーマ理論では、運動は脳内の運動プログラムによって制御され、単純な反復練習によって発達し、様々な課題に合わせて調整可能とされています。
しかしながら、近年では伝統的アプローチは、個々の性質や事情は重視せず全員を一様に揃える画一的な方法であり、さらに解決策を明示的に指示することで練習者の独自で機能的な解決方法を生み出す機会を妨げることが懸念されています。

伝統的アプローチでは、単純な反復練習で練習として高いレベルでスキル獲得をした後、それを競技パフォーマンスにスキルを移行させることが難しいという問題がありました。
簡単にいえば、練習で出来ても本番で出来ないという問題です。
このような懸念に応じて、制約主導アプローチ(CLA)などの現代的なスキル獲得方法が登場しました。
制約主導アプローチでは、熟練した行動の発達は、個人、環境、課題、の相互に影響し合う相互作用の自己組織化プロセスであると説明しています。
ゴルフに置き換え一部を例にあげると、個人(身体的特徴、短周期的な体調や疲労及び可動性や筋力の変化)、環境(気象条件、観客、同伴競技者、コース)、課題(クラブの違い、狙いの違い、予選カットスコア)これらの相互作用する制約から運動スキルが生じると提案されています。
そのため、制約主導アプローチでは、スキル獲得に代替する用語として「スキル適応」が提案されています。
熟練した行動の発達は、特定の運動プログラムの獲得と更新(スキル獲得)ではなく、「継続的に改善できるパフォーマンス環境での機能性の向上(スキル適応)」であることを示唆しています(引用3)。

ここまでの内容では、伝統的アプローチより制約主導アプローチの方が優れているかのように思われますが決してそんなことはなく、目的に応じて指導者が双方のアプローチ方法の特性を理解して考慮すべき利点と欠点を把握したうえで選択する必要があります。
引用1の著者は、それぞれの特性を表にしています(引用1、表1)。
その内容を表1では、簡易的にまとめました。
この論文の著者は、効果的な指導をおこなうためには、伝統的アプローチと制約主導アプローチを統合して実際に適用する際の指針として、以下の原則を提案しています。

  • 練習に対する明確な意図を設定する
  • 指導内容を選手の個々のニーズと指導環境の学習成果に合わせ調整する
  • 練習では動きの変動量のバランスをとる(パフォーマンスを損なわない程度の課題設定)
  • 練習中にミスをする機会を増やす(意図的に課題の難易度をあげてミスさせる)
  • 右肩上がりには上達しないことを考慮して、柔軟な練習構造を設定する
  • 実際の競技環境の要求を適切に表現した練習をする
  • 重要な情報を想定して、関連するパフォーマンス情報との結びつきを深める

表1 スキル獲得に関する伝統的アプローチと制約主導アプローチの特性比較(引用1より参照作表)

  1. Lindsay, R., & Spittle, M. (2024). The adaptable coach – a critical review of the practical implications for traditional and constraints-led approaches in sport coaching. International Journal of Sports Science & Coaching, 19(3), 1240-1254. https://doi.org/10.1177/17479541241240853
  2. Schmidt, R. A. (1975). A schema theory of discrete motor skill learning. Psychological review, 82(4), 225.
  3. Renshaw, I., Davids, K., Newcombe, D., & Roberts, W. (2019). The constraints-led approach: Principles for sports coaching and practice design. Routledge.