#35『つま先上がりとつま先下がり』
2024年7月に2年に1回開催される第11回世界ゴルフ科学会議がイギリスのラフバラー大学で行われ、著者らも第9回カナダのバンクーバーから第10回アメリカ(コロナのためオンライン)と3回連続で参加しています(写真)。
今回の会議会場であるラフバラー大学は、スポーツ科学分野での評価が高い大学として有名です。
近年、ラフバラー大学のGlen M.Blenkinsop氏が中心となるゴルフ研究グループは傾斜(左足上がりと左足下がり)からのショット分析に注力して論文を発表しています(引用1,2)。
本会議では、つま先上がりとつま先下がりのショットについて新たな発表があったので、発表の一部を紹介します(引用3)。
つま先上がりとつま先下がり
日本のゴルフ用語では、一般的につま先上がりとつま先下がりと呼ばれる傾斜は、英語では総称してSidehill slopes(サイドヒルスロープ)と表記されています。
また、日本はつま先を基準に上がりや下がりと言いますが、英語では、ボールの位置が足底より上にあるか、下にあるかを基準にしています。
つま先上がりは、Ball above feet:足上のボール。
つま先下がりは、Ball below feet:足下のボール。
英語でも俗称としては他の呼び方もあると思われますが、傾斜研究の先駆者が採用している用語が今後も学術研究では使用されていくと思われます。
HDCP5以下のゴルファー21名に5度の傾斜から8球
5度の傾斜は勾配にすると約8%となり、ゴルフコースでの平均的なショットで求められる勾配です。
結果は、ボールインパクト時のライ角が傾斜によって大きく変化していました(図1)。
平らなショットでも平均5度のトゥダウンがみられるグループでは、傾斜の角度にプラスして5度のトゥダウンがあり、どの斜面のショットでも地面に対して同じようなライ角でインパクトするという一貫性がありました。
5度のつま先下がりでは、さらに約5度プラスして9.9°のトゥダウンでインパクトしていました。
5度のつま先上がりでは-5°と考え、平らなのショットのトゥダウンが+5°とするとプラスマイナス0に近い状態でインパクトしています。
この結果に伴い、スイングプレーンのライ角度にも変化が確認されています。
平らなショットでは59°、つま先上がりでは55°、つま先下がりでは62°とインパクト時のライ角のような斜度と同じ5°丁度の変化ではないものの、平らなショットと比較して3~4°の変化が確認されています。
アドレスの方向は定説通り
アドレススタンスの方向は、平らなショットでは-0.3±2.9°とほぼ真っすぐ向けているグループでは、つま先上がりでは右に2.7±3.7°と定説通りボールが左に飛びやすいためかあらかじめアドレスでは右を向く結果になっています。
つま先下がりでは、左に3.1±4.3°と定説通りボールが右に飛びやすいことを考慮してあらかじめ左を狙う結果になっています。
このアドレスに伴ってボールの飛びだし方向もつま先上がりでは右に、つま先下がりでは左にボールが打ち出される結果となっています。
実践への応用
- つま先上がりの場合はスイングプレーンがフラットに、つま先下がりの場合はスイングプレーンがアップライトになる傾向があり、スイングの癖を修正するのに役立つ
- インパクトでは斜度にプラスして5°トゥダウンでインパクトをむかえているため、異なる傾斜でも傾斜に応じて一貫したライ角を保つことが大切である
- 5°以上の大きなスロープになった時には、また別の方策があると考えられるため、 まずは自分の打つ傾斜の斜度を知ることも大切である
引用文献
- Hiley, M. J., Bajwa, Z., Liang, Y., & Blenkinsop, G. M. (2019). The effect of uphill and downhill slopes on centre of pressure movement, alignment and shot outcome in mid-handicap golfers. Sports Biomechanics, 20(7), 781–797. https://doi.org/10.1080/14763141.2019.1601250
- Blenkinsop, Glen M;Gallimore, Nicholas J;Hiley, Michael J;Liang, Ying Less.(2018). The Effect of Uphill and Downhill Slopes on Weight Transfer, Alignment, and Shot Outcome in Golf.Low-power, Continuous Remote Behavioral Localization with Event Cameras.Vol. 34, Issue 5, pages 361 – 368.
- Nolan, C., Blenkinsop, G. and Hiley, M. (2024). The Effect of Sidehill Slopes on Technique and Performance in Golf. World Scientific Congress of Golf, Loughborough University, UK, 10-12 July.