#36『池に1年間沈めてもゴルフボールの性能は維持される?』
ゴルフの研究は、幅広く多岐にわたります。
今回は、ゴルファーの単純な疑問を解消してくれる論文を紹介します。
池の中に水没後のゴルフボールの性能低下に関する論文で、おそらくこの関連では、世界で初めて査読付き論文(専門家が評価し認められた論文)として科学的評価をおこなった研究です(引用1)。
ゴルフボールの市場規模
2010年のデータでは、日本は年間で約1億1千万個のゴルフボールが消費されています(引用2)。
2024年のデータでは1カ月で約100万ダース:1200万個のボールが月間に流通しています(ゴルフ用品界調べ)。
一方アメリカでは、年間で日本の約3倍の3億個と推定されています(引用1)。
多くのゴルファーは新品のボールよりも低価格で購入できる中古ボールを選択し購入します。
そのため、中古ボールを購入するゴルファーにとって重要な問題は池に沈んだボールは性能がおちるのか?という問題です。
過去のボールでは性能は落ちた?
この論文によると過去1996年に米国ゴルフ雑誌の企画で行われた実験では、当時の2ピースボールと3ピースボールを池に半年間沈めさせた後に実験をした結果、2ピースでは8.2m、3ピースでは15.4mの距離の減少が確認されています。
当時のボール事情から、2ピースボールはサーリンカバー、3ピースボールはバラタカバーのボールと推定され、当時のボール製造技術では多かれ少なかれ、池に半年以上入っていたボールでは確実に飛距離は落ちたことは間違いなさそうです。
タイトリストPro V1 2016では変色するが性能は落ちない
1990年代と比べてボールの素材や製造技術は大きく進化しています。
そのため、過去の報告とは違う実験結果が示されています。
結果は、最大で1年間池に沈ませたボールと新品ボールの飛距離性能、方向性能のいずれも統計的な有意差は確認されませんでした。
これは、ゴルフスイングマシンによるテストなので客観的な事実として信頼性のある結果といえます。
統計的には差がないものの、わずかな差は確認されています。
池に浸かっていたボールとの平均飛距離の差は約1ヤードと総飛距離の0.5%程の飛距離低下とわずかな差のみが確認されています(引用1、図1)。
約242ヤードが約241ヤードになったとしてもスコアへの影響はほとんどないと推測されます。
しかしながら、この研究ではボール表面の色の変化についても検証し、変色が確認されています(引用1、図2)。
論文に掲載されている写真を見る限りでは、かなりの変色がありますが、飛距離性能や方向への影響は極めて少なく一般のプレーでは影響を受けない程度と結論付けています。
過去のボールと比較すると現代のボールでは、1年間、池に浸かっていたボールであっても極端な性能の低下はなく、ロストボールなどの再利用が可能と考えらえます。
実践への応用
- 1年間池に浸かると色の変化はあるが、飛距離は0.5%低下のみで方向への影響もない
- 色の変化を視覚的な性能低下と考える場合、気になる人は新品ボールを使う必要がある
- 一般アベレージゴルファーや初心者であれば、ロストボールなどの再利用も可能である
引用文献
- Raffel, T. R., & Long, P. R. (2023). Retention of golf ball performance following up to one-year submergence in ponds. International Journal of Golf Science.
- 堀内邦康 ゴルフボール 日本ゴム協会誌第83巻 第5号(2010)