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鈴木タケル

#38『塩水を利用したボールのバランステスト』

市販されているゴルフボールがラグビーボールや卵のように楕円形ではないことは疑う余地もありません。しかしながら、目にみえないボール内部の歪みや僅かな偏りがある可能性はあります。

ボールの歪みに関して疑いを持った歴史は古く、今から117年前の1908年に、イギリスの技術者、芸術家としても知られるラルフ・ペイン・ガルウェィ(1848年-1916年)は、簡単な実験により当時のゴルフボールのバランスが歪んでいることを証明しました。
それは、ビリヤードに似たゲームであるスヌーカーのテーブルを利用したもので、同じところに転がるように設定した傾斜台から次々とゴルフボールを標的に向けて転がし、当時のゴルフボールのほとんどが歪んでいたことを証明しました(引用1)。

次に28年前の1996年に書かれたパッティング研究の第一人者であるぺルツの書籍「パッティングの科学」には、塩水の浮力を利用したボールのバランステスト方法が紹介されました(引用2)。
今回は、著者自身が昨年おこなったぺルツの塩水を利用した方法によるゴルフボールのバランステストの結果を報告いたします(引用3)。

タンブラーやコップに5~6㎝の高さ(約150㏄)までお湯を入れ、塩を約30g加えます(図1)。
テスト用のボールが浮力で水面まで浮くように塩を加えます。
次に、浮いたボールを水面で回転させます。もしボールのバランスに偏りがある場合、重い側は必ずコップの底側で停止し、軽い側は水面側に浮いて停止します
水面に浮いているボールのディンプル部分に油性ペンで印をつけ、数回テストすると、バランスに偏りがあるボールでは印を付けた場所が再現性よく水面に浮いてきます(図2)。
ぺルツは28年前に書かれた著書の中で、2ダースのサンプルのうち完全にバランスが取れたボールは1つもなかったと記しています。
ぺルツが行った実験から約30年が経過しているため、ゴルフボールの性能や製造技術および品質管理は当時よりも進歩していると考えられます。

図1 実験に使用する塩水の作り方
図2 無作為に指でボールを動かし水面に浮いた部分に印を付ける
  (写真右では3回目も同じ頂点となりバランスに偏りがあるボール)

デシャンボー選手の雑誌インタビュー記事によれば、自身が競技で使うボールは全て自分で塩水による検査を実施して合格したものだけを使用すると書かれています。
一般的なメーカーの場合は、1ダース(12球)中で3~4球が不合格になるというが、ブリヂストン社製ボールの場合は不合格が1球あるかないかだと説明しています(GDOニュース,2016)。
デシャンボー選手がおこなったボールの重心位置を判別するための塩水検査の具体的な方法は明確にされていませんが、現時点で最もボールの品質管理が精確と推測されるメーカーのボールを採用して調査をおこないました。

無作為に購入された同一銘柄36球のボールを全てテストした結果、バランスボール12球、アンバランスボール12球、あいまいなボール12球という判別結果となりました。
予想外にも、どちらとも判別ができないボールが多数存在することが確認されました。
これは、実際に36球という多数のテストを実施してわかったことですが、この実験では、3回連続で同じ場所が頂点に浮いてきた場合にアンバランスボールと判定しました。
はっきりと同じ部分が再現性よく水面に浮かべばアンバランスボールと判別できますが、数回のテストを繰り返しても2か所が決まって水面に浮く場合や、50%程の確率で同じ場所が水面に浮く場合もあります。
このため、塩水を利用したバランステストを実施する際の判別基準や塩分濃度、湯温の調整など、実験設定における今後の検討課題となりました。
しかしながら、現在でもバランスボールとアンバランスボールが存在することは間違いなさそうです。今後は、このバランスの違いがショットやパットの性能にどうのように影響を及ぼすのか調査が必要となります。

  1. 1Peake, M. 2013. How well do you know your greens? Greenkeeper International. August. p56=57.URL:http://archive.lib.msu.edu/tic/bigga/gki/article/2013aug56.pdf
  2. デイブ・ぺルツ,ニック・マストローニ著 児玉光雄翻訳(1996)
    パッティングの科学 新装版 ベースボールマガジン社 pp20-21
  3. 鈴木タケル、浅井泰詞、北徹朗(2024).塩水を利用したゴルフボールのバランステストとボールバランスの違いがボール転がり性能に及ぼす影響.日本ゴルフ学会第34回大会