#40『TGLインドアゴルフリーグ現地視察報告』
「ゴルフ技術パフォーマンスに着目して」
今回は、ウッズやマキロイなどが発起人となり、フロリダのSoFiセンターで開催されているTGLインドアゴルフリーグの現地視察の報告をします。
今回の視察は、スポーツインダストリー社の下田代表を中心に集まったゴルフに関する専門家4名の視察団で行われ、それぞれ異なる視点からの視察となりました(図1)。
TGLに関する目的や運営上の情報や競技形式やルールに関しては、公式ホームページでも紹介されています(引用1)。
もっと詳しく易しくTGL情報を知りたい方は、ゴルフ・グローバルNo.32(2025年3月31日発売)、No.33(2025年5月30日発売予定)の中で、詳細に紹介されます。
今回は、ゴルフ技術パフォーマンスに着目して、3つの視点から考察します。

写真左から ショットビジョン社 森代表、スポーツインダストリー社 下田代表、
ゴルフ・グローバル 大泉編集長、著者
①文脈干渉効果: contextual interference effect
視察した試合だけでなく、他の録画された試合をみてもトッププロがミスショットをすることが比較的多くみられ、それはそれで普段のPGAツアーでは見られない様子がみれて楽しいのですが、その多く起こるミスの原因について考察しました。
運動学習の分野で使われる文脈干渉効果とは、言葉は難しいですがゴルフをする人であれば体感することであり、理解が難しいことではありません。
例えば、練習場の固定されたマットや変わらない練習場の景色や足場ではよいショットを打つことができますが、実際コースに出てみるといつもの練習場のようなショットが打てないことがあります。
ゴルフの他にも、バスケットボールのフリースローやテニスのサーブなど練習環境と本番の環境が違うといつものパフォーマンスを発揮できない現象が起こります。
これは、反復練習する時に目的とするスキル以外の環境や情報まで含めて記憶してしまうことに起因します。
これを防ぐために、固定された環境で同じスキルをブロック練習するだけでなく、様々な環境やスキルを無作為におこなうランダム練習を実施することでこれを防ぐことができるのが文脈干渉効果です(引用2)。
TGLに参加するトッププロでは、熟練されたスキルは屋外のゴルフ場環境であり、さらにいえば静寂の中打たれるトーナメント会場でのショットスキルを極めている人達といえます。
我々には、変わりゆく屋外ゴルフ場環境は実力を発揮するには極めて難しい環境ですが、PGAトッププロにとってはそれが通常です。
しかしながらTGLでは、環境が通常の屋外ツアーとは大きく異なります。
そのため、普段おこらないようなミスがおこるのではないかと推測されます。
視察して感じたのは、音、光、足場(ボールライ)の3つが通常のトーナメントとは大きく異なることです。
まずは、音です。録画映像では会場内に流れるアップテンポの大音量の音楽はノイズキャンセルされていますが、会場では、かなりの音量で流れ続けています。
これは、普段は静寂の中でショットするプレーヤーにとっては、大きな環境の違いといえます。
2つ目は、背景や空の違いなども含めた光です。
屋内でのアプローチやバンカーは、屋外と違い、背景は迫っているうえ天井があり空間的な感覚を狂わすには十分と考えられます。
また、、太陽の光とは違う照明のあかりは、影は一方向には現れず、グリーンや足場の傾斜を感じづらくしている可能性もあります。
3つ目の足場は、いうまでもなく人工芝のグリーンやラフは、通常のコースにはないうえ、グリーン上に着弾した時のバウンド、さらにショットした時のクラブの抵抗やボールの挙動(打ち出し角度やスピン)にも影響がでることは間違いないです。
これらの3つの違いだけでなく、他にも違いはあるとは思います。
しかしながら、今後もPGAツアーのトッププロがこの環境に苦しむことが続くわけではなく、次第に環境に適応し、よいプレーが映像に収められ世界中に配信されていくことは間違いないでしょう。

②時間切迫: time pressure
TGLでは、全てのショットに40秒のショットクロックが採用されています。
制限時間を超えるとペナルティが科されます。
そのため、プレーヤーにとっては、時間切迫に対する重圧は大きいと考えられます。
ゴルフと同じターゲット種目であるダーツの研究では、制限時間の切迫が心理的ストレスを増加させ、実際のパファーマンスも低下することが確認されています(引用3)。
ゴルフのパッティングでも、時間切迫に限らず心理的ストレスが動作の変動を大きくし、パフォーマンスを低下させることが明らかにされています(引用4)。
そのためショットクロックの採用は、試合時間の短縮に貢献する一方で、プレーヤーの難易度をあげていることは間違いないといえます。
さらに、現地視察で確認したことは、ショットクロック残り15秒から心臓の鼓動を模した音源が流れはじめ、残り秒数が減るほどに鼓動を模した音声も速くなっていき、タイムプレッシャーを煽る演出がなされていることです。
これは、音源により残り時間をプレーヤーに知らせる一方で、タイムプレッシャーを増幅させる効果もあります。
特に、状況判断に時間を要するパッティングでは、時間に迫られるうえに精緻なパッティングストロークをあの音響の中でおこなうことになり、難易度を高めています。

③バンカーの砂
今回の視察に限らず、TGLではバンカーからのショットにおいてミスが多いことに気づきます。
バンカーから出ないことや、それを警戒するトップなどが散見されます。
フィールドが小さいため、グリーンのギリギリを狙ってバンカーから出ないということも当然あります。
しかしながら、それにしてもバンカーから出ないショットが多いように感じられます。
その要因として、室内特有のバンカーの砂に着目して考察します。
屋外のバンカーに比べ、室内バンカーの砂は水分量が少なく乾燥していることが、バンカーショットの距離がプレーヤーの思うほど出ない原因と考えられます。
砂が乾燥し柔らかいためバウンスの跳ね返りが少なく、クラブが深く砂に入り込んでしまうため、飛距離がでないと考えられます。
屋外のバンカーでは、空気中の湿気や雨が砂に水分を保持させることがあります。
また、バンカー砂下の土壌から水分を毛管作用により砂表面に吸い上げることも考えられます。
屋内バンカーは、おそらくバスタブのような大きな容器に砂を敷き詰めただけで砂の下に何か水分を保持する仕掛けがあるとは考えられません。
例えるならば、室内の鉢植えの土壌は乾燥しやすいが、屋外の土壌は通常の気候であれば、それほど乾燥しないことに似ています。
室内バンカーでは、空気はエアコンにより安定温度と湿度に管理され乾燥しやすいと推測できます(鉢植えの土壌状態)。
バンカーには、試合前後には軽く水を撒いていると考えられますが、乾燥は早く、試合前の練習時と試合中のバンカーは別物になると予想され、プレーヤーを悩ませる原因となっていると推測されます。
実際に、著者自身も別の機会に韓国でのインドアバンカー練習施設にてショットした際も砂は乾燥し、サラサラの状態であり、クラブは砂に深く入りやすく難易度が高いと感じました。

まとめ
視察を終え、TGLの感想は、INAUGURAL SEASON 2025と主催側もいっているようにINAUGURAL:初開催 だということもあり、様々な面で発展途上を感じました。
ただ、これは決してネガティブな意味ではなく、もっと楽しくなる、もっと見せ方に工夫できる、もっとデータやテクノロジーも駆使できる、というポジティブな意味であり、今後の発展に期待できると思えました。
今回、視察に同行のメンバーには、たいへんお世話になり、勉強させて頂きました、この場をかりて感謝申し上げます。
引用文献
- TGL 米国公式HP https://tglgolf.com/
- 最新スポーツ科学事典(2006) 平凡社 「文脈干渉効果」pp774-775.
- 村山孝之、田中美吏、菅井若菜、関矢寛史(2007)時間切迫が運動スキルの遂行に及ぼす影響.体育学研究,52,443-451.
- 田中美吏・関矢寛史(2006)一過性心理的ストレスがゴルフパッティングに及ぼす影響.スポーツ心理学研究,33(2),1-18.