記事を探す
閉じる

鈴木タケル

#41『ショットリンク採用後のPGA TOURパッティング統計』

「20年間に近距離パッティングパフォーマンスは向上したのか?」

PGA TOUR(アメリカ)では、2002年あたりからフィールドでのパット分析はショットリンクスシステムが採用され、残り距離に対するパット成功率が分析されています(引用1)。
それまでは、1ラウンドあたりの総パット数や1ホールの平均パット数などが分析の対象となっていましたが、それではパットの本当の巧さが分析できないという理由から、残り距離に対するパット成功率を分析するようになりました。
日本では、従来の方法でパット評価されることもあり、PGA TOURの方法と比較すると遅れを取っていることは否めません。
ショットリンクシステムには、莫大な費用がかかるため日本での運用は難しいと考えられます。
さらに、PGA TOURでは、2025年から「PGA TOUR STUDIOS」の運用を開始して、テレビ会社に頼らず自前で映像を作成し、作成される映像とショットリンクシステムから得られる統計情報を自動で生成し、視聴者に魅力的なゴルフ中継を提供する事業を始めています(図1、2)。
今回は、過去20年あまりのショットリンクシステムから得られた短い距離のパット成功率の統計から、パット成功率の変遷を調査しました。

図1.2025年から運用が始まったPGA TOUR STUDIOS(フロリダ)
図2.PGA TOUR STUDIOS内部の中継センター

PGAツアー選手のフィールドでのパット分析では、2.4m距離のパット成功率は2002年~2023年までの約20年間において約50%であり、ほとんど変化が見られません、同様に4.5~6.0mの距離から打たれたパットの成功率も約20%と大きな変化はありません。(引用2、図3)。
2.4m距離の成功率には、各年により3%程の変動はあるものの継続的な確率の上昇や下降は見られません。4.5~6.0mでは、さらに変動が少ない結果となっています。

  図3.PGAツアー選手の2002~2023年までのパット成功率(引用2より作図)
    ※2.4mと4.5~6.0mの間から打たれたパットの成功率

この20年間で、テクノロジーや指導技術はパッティング成功率にどのように貢献したのかを考えると今回の調査結果からは明確な答えを探すことが難しい結果となっています。
ボールやパタークラブ(ヘッド、シャフト、グリップ)などのテクノロジーは日々進化していると思われます。また、計測器の発達により指導技術も進化し、より精確なストロークが可能になっていると思われます。
また、グリーン傾斜の読みは60%程の重要度があり、技術の要因よりも特に重要であることがと報告されています(引用3)。
そのため、グリーンを読む方法なども開発されてきました。
プレッシャーや不安に対処する方法に関する研究も多く報告されてきました。
しかしながら、これらの研究や開発がトップレベルのPGA TOURのパット成功率をみる限り、反映されているようには見えない結果となっています。

上記のような結果の要因は複数考えられます。
まずは、統計結果には表れない要因としてグリーン上の難易度も年々上がっている可能性があるので、技術は上がるのとグリーンの難易度が上がることが相殺され、統計結果として表れないと考えることもできるでしょう。
また、対象的な考えとして選手の技術は頭打ちの状態であり、これ以上人間がパットの成功率をあげるのは難しいと考える人もいるでしょう。
この結果からでも様々な議論はできますが、パットの成功と失敗を決める要因を幅広く調査する必要があります。
これまでの、パットに関する研究では、打ち方に関する技術やプレッシャーや不安に関する研究などプレーヤーの内的要因を明らかにすることに重きが置かれてきました。
しかしながら、パットは打たれた後でも風の影響やグリーン上の凸凹の影響を受けて失敗することもあります。
このような、外的要因にも目を向けて今後は幅広い研究がおこなわれることで、この20年間の成功確率の停滞の謎を解明できる可能性があります。
今後は、内的要因だけでなく、外的要因を含めた幅広く学際的な研究が必要となります。

  1. Broadie, M. (2012). Assessing Golfer Performance on the PGA TOUR. Interfaces, 42.
  2. PGA TOUR Official website 2024. https://www.pgatour.com/stats/off-tee.
  3. Karlsen, J. (2010). Performance in golf putting. Dissertation from the Norwegian school of sport sciences.