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鈴木タケル

#42 ブロック練習VS.ランダム練習VS. 差異学習(Differential Learning)

「初心者の近距離パッティングを課題とした比較」

ゴルフコースで、よいショットやパットをするためには繰り返しの反復練習は必須です。
しかしながら、どのように練習するべきか?どのように反復練習をするべきか?運動学習方法に関しては、これまでゴルフではあまり語られていません。
むしろ、どう打つか?どのように構えてどういう意識で打つか?というスイング理論やパット理論に関しては、数多く存在します。
運動学習は、できない状態からできる状態にするための方法や、その過程を説明する分野であり、ゴルフとの関連性は高く、運動学習の研究では、パッティング課題がよく使用されます。
今回は、運動学習方法の違いが上達の結果に及ぼす影響を比較した研究を紹介します(引用1)。

この実験では、女性初心者ゴルファー40名が参加し、無作為に4つのグループに割り当てられました。 
①ブロック練習
②ランダム練習
③差異学習
④練習なし

①~③のグループは、それぞれ異なる練習方法を1日に120球、3日間で360球練習しました。
④は、練習をその間全くおこないませんでした。
比較は、3日間の練習後、さらに3日空けた後に保持テストとして、練習効果がどの程度保持されたかを比較しています。

ブロック練習とは、特定のスキルや動作を繰り返し反復練習する方法です。
この実験では、3つの距離が採用されました(1.22mと2.44mと3.66m)。ブロック練習では、1日目は1.22mを120球、2日目は2.44mを120球、3日目は3.66mを120球と、1日の練習距離を固定(ブロック)して反復練習をおこないました。

ランダム練習とは、異なるスキルや動作をランダムに組み合わせて練習する方法です。
この実験でのランダム練習は、同じ距離が2回連続で繰り返されないように練習がおこなわれました。1.22m→3.66m→2.44m→3.66m→1.22m→2.44m・・・と不規則(ランダム)な順序で練習を1日に120球、3日で360球練習しました。また、ブロック練習とランダム練習の中間的な方法として、今回は採用されていないシリアル練習があります。これは、1.22m→2.44m→3.66m・・・同じ順序を連続(シリアル)しておこなう方法もあります。

差異学習(Differential Learning:DL)とは、様々な課題(ノイズ)を提示し、運動の変動を利用して選手が新しい状況に適応する能力を養うことを目的に考えられ、ドイツ教育理論博士のSchöllhorn(シェルンホルン)によって提唱されています(引用2)。
この実験の差異学習グループでは、2.44mの距離は固定されましたが、1回ごとの練習には様々な課題(ノイズ)が用意され、120種の課題をこなし1日に120球練習をおこない、これを3日間続けました。
120種の課題の例は、スタンスの広さ、両足のつま先の向き、片足をあげる、両膝を伸ばすまたは曲げる、両肘を固定または弛める、片目を閉じて打つ、など足から頭に及ぶまで様々な課題をこなして2.44mから120球を練習しています。
興味深いのは、この実験設定では、①と②の条件とは違い、距離を2.44mで固定していることです。
その代わり、1球も同じ課題はなく、120種の課題が与えられたことです。

保持テストの内容は、練習終了日から3日後に1.22mと2.44mと3.66mの3つの距離からランダムな順序で目標に向かい12回パットして、目標からの誤差距離の合計で比較されました。
全ての練習方法で、④練習なしグループよりは効果がありました。
②ランダム練習と③差異学習では、①ブロック練習よりも結果が優れていました。
②ランダム練習の結果がよいのは理解できますが、2.44m距離からのみ練習の③差異学習グループの結果が優れていたことに、差異学習の練習効果の大きさが表れる結果になっています。

この実験では、もう一つ転移テストをおこなっています。
転移テストとは、同じく練習終了日から3日後に、どのグループも練習をおこなっていない4mの距離を採用し、12回パットして誤差距離を比較しました。
この結果では、興味深いことに③差異学習グループは、全てのグループよりも有意に誤差距離が短い結果となっています。
①と④とは、差があることは理解できますが、多様な距離からランダム練習をおこなった②ランダムグループよりも③差異学習は結果が優れていました。

この研究の結果は、初心者の場合でも③差異学習が①ブロック練習及び②ランダム練習よりも、保持テストや転移テストにおいて、有効な練習方法である可能性を示しました。
しかし、差異学習の提唱者であるシェルンホルンの理論によれば、差異学習で利用される課題(ノイズ)の質や量は、学習者のスキルレベルに比例するべきだと主張しています。
つまり、初心者であれば、獲得しようとするスキル以外の課題(ノイズ)は簡単で少なく、熟練者ほど獲得しようとするスキル以外の課題(ノイズ)の質と量を増やして最高のノイズレベルを利用することを推奨しています。
ゴルフに例えるなら打つだけで手一杯の初心者は、内的ノイズがすでに高い状態にあるので他のノイズを利用する必要はありません。
逆に熟練者では、あえて本来の自身のスイング方法に差異(Differential:ディファレンシャル)をつけて、握り方やスタンスの広さや方向に差異をつけることや、閉眼や片足スイングなど、スイング練習するということは反復ではあるが、同じ条件では過度な反復練習をおこなわないという意味で、このような方法を「反復のない反復練習」と呼ばれています。

  1. akbarabadi, H. , Fazeli, D. and Shamsipour, P. (2024). The Effect of Differential Practice and Contextual Interference on Learning and Mental Representation of Golf Putting. Journal of Sports and Motor Development and Learning, (), -. doi: 10.22059/jsmdl.2024.379928.1793
  2. Schöllhorn, W. I. (2005). Differenzielles Lehren und Lernen von Bewegung: Durch veränderte Annahmen zu neuen Konsequenzen. In Zur Vernetzung von Forschung und Lehre in Biomechanik, Sportmotorik und Trainingswissenschaft (pp. 125-135).