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鈴木タケル

#54『スイングの乱れは“周波数”で見る』

― ヒルベルト–フアン変換による動作解析 ―

これまでのスイング評価は、主に形(フォーム)に焦点が当てられ、「角度」「位置」「速さ」といった指標で評価されてきました。
これらは、バイオメカニクスとして、様々な研究や調査がおこなわれてきました。
しかし、実際のスイングは、時間とともに速度や加速度が変化する非定常運動です。
つまり、同じ形や結果に見えても、その内部で起きているリズム(時間変化)や結果の生成過程は異なる可能性があります。
このような非定常かつ複雑な動作を解析する手法として、動作を分解し瞬時周波数を求めるヒルベルト–フアン変換(HHT)という手法があります。
今回紹介する研究では、この手法を用いてスイングを周波数成分(時間変化する波動構造)として捉え、レベル別のスイングの違いを分析した論文を紹介します(引用1)。

この研究では、慣性センサーを用いて被験者のスイング動作を計測し、得られた時系列データを解析対象としています。
特に、頭部・上肢・下肢(主に左側)の動きに着目しています。
また、被験者の技術レベルは、上級者中級者初級者でした。
解析は以下の手順で行われました。

1)スイング動作の時系列データを取得
2)EMD(経験的モード分解)により動作を複数の成分に分解
3)各成分にヒルベルト変換を適用し、瞬時周波数と振幅を算出

この処理を簡潔に説明するのは非常に困難ですが、簡単にいうとスイングは単一の動作ではなく、複数の周波数成分が重なった構造として表現されます(図1)。

図1.ヒルベルト–フアン変換による動作解析実験データの例(引用1より転載)

この研究では、レベル別に周波数の特徴が現れたことを報告しています。
レベル別の違い
・上級者:周波数が安定
・中級者:特定部位に乱れ
・初心者:毎回ばらつく

また、ストレートボールとスライスするミスパターンのスイング差を報告しています。
ストレート vs スライス
・ストレート
周波数成分が連続的に変化(なめらかな速度上昇)
インパクトでエネルギー集中、動きが一つにまとまる(ノイズが少ない)
・スライス
高周波(基本的に速い動き)が分散
頭部・左脚の動きが増加し、不要な動きが混入(ノイズが多い)

結果から、技術差はリズム構造の差として現れ、スライスの原因はフェースや軌道だけでなく、動きの乱れ、すなわち周波数の乱れにも表れることを報告しています。
したがって、この結果は、形やインパクト情報に加え、リズムの調整も重要である可能性を示唆します。
インパクト前の急な加速や、頭部・下半身の過剰な動きは、インパクトの乱れと関連する可能性が示唆されています。
良好なスイングでは周波数の連続性が高く、不安定なスイングでは分散傾向が見られます。
スイングの本質は形だけではなくリズム構造にも由来すると考えられます。

今回の実験結果は、ゴルフに詳しい人であれば想定可能な内容と考えられます。
しかし、この研究は、スイングの評価方法を新たに提案したことに新規性と意義があります。
従来のバイオメカニクスや弾道測定器よりもさらに先進的な方法であり、今後の発展が期待される分野です。
従来の方法との比較を表1に示します。
今後のスイング評価は、従来の形態的・幾何学的指標に加え、時間的変化やリズム構造を捉える周波数的視点が重要になると考えられます。
特に、非定常運動としてのスイングを評価することで、個々の選手の再現性や安定性、さらにはミスの発生メカニズムをより精緻に把握できる可能性があります。
今後はウェアラブル技術やAIの発展とともに、リアルタイムでのリズム評価や個別最適化された指導への応用が進むと予測されます。

表1.バイオメカニクスと周波数解析(HHT)との比較

1.Dong, R., & Ikuno, S. (2023). Biomechanical Analysis of Golf Swing Motion Using Hilbert–Huang Transform. Sensors, 23(15), 6698. https://doi.org/10.3390/s23156698