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鈴木タケル

#58『プレショットルーティンに呼吸法を取り込むことでプレッシャーに打ち勝つ?!』

大事な場面になるほどスムーズなスイングが実現できないことは、ゴルファーであれば誰しも一度は経験する現象です。
そのため、ショット前の手順を習慣化するプレショットルーティンやショット前に深呼吸をするなど、プレッシャーへの対抗策が採用されています。
今回は、「プレショットルーティン」に「呼吸法」を組み込むことで、プレッシャー下のショットにどのような変化が起きるのかを検証した最新の研究を紹介します(引用1)。

一般的に重要な場面では交感神経が優位になり、心拍数が上がって手先の細かい調整が困難になることが知られています。
一方で、呼吸を意図的にゆっくり行う「スローペースド・ブリージング:SPB」は、迷走神経の働きを高めて副交感神経優位の状態をつくり出し、心身を落ち着かせる手法として、スポーツ心理の分野で注目されてきました。
またゴルフでは、ショット直前に心理的不安があると、意思決定やスイングメカニズムが阻害される可能性があります。
これらの悪影響を軽減するために多くのプレーヤーは、心理的準備、戦略的計画、ショットへの集中や視覚化および自己対話を含む、「プレショットルーティン:PSR」を採用しています。
この研究では、SPBを通常のPSRに組み込むことで、自律神経活動や心拍変動やスイングパフォーマンスがどう変わるかを調査しています。

実験参加者は、ハンディキャップ0~5の男性ゴルファーで、プロとアマの混在で、競技歴も長く、練習頻度も多く、競技志向の高い上級者が対象になっています。
参加者は、以下の3つの条件から5球ずつ合計15球のショットをおこない分析しました。

①通常のPSR:プレショットルーティンのみ
②SPB+PSR(平常時):スローペースド・ブリージングとプレショットルーティン

③SPB+PSR(プレッシャー下):②にストレスを与えた条件

各条件で自律神経活動や心拍数、クラブヘッドスピード、飛距離、方向性のズレを客観評価として計測しています。
また、メンタルの落ち着き、筋肉の緊張、自信の度合いを主観評価として5段階で自己評価しました。
③プレッシャー下条件では、「成績が記録・比較され、上位3名に報酬が与えられる」と事前に伝えることで中程度の心理的ストレスを与えています(プロの試合のような強いプレッシャー下ではなく、あくまで中程度のストレスを狙った実験設計)。

自律神経活動と心拍

①通常のPSRよりも、②と③のスローペースド・ブリージングを取り入れた場合に副交感神経の働きが高まり、心拍数も低く抑えられる結果となっています。
つまり、通常時だけでなく、プレッシャー下でも「ゆっくり呼吸をすること:SPB」で、副交感神経の活動と心拍に、有意な効果が確認されています。

スイングパフォーマンスへの影響

興味深いのは、プレッシャー下では飛距離が伸びる一方で、方向性のズレは通常時より大きくなった点です。
プレッシャーによって力み(パワー)が増す反面、繊細な調整が犠牲になるという、パワーと精度のトレードオフが表れたと言えそうです。

心理的準備への影響

SPBによって、メンタルの落ち着きや筋肉の弛緩は改善しましたが、自信度はプレッシャー下でむしろ低下しました。
自信度は、➂プレッシャー下で2.33点であったのに対して、➀通常のPSR条件では3.27点となっています(5段階評価)。
SPBによって生理的な落ち着きは証明されましたが、精度の低下や自信の揺らぎを完全には防げないことが示されています。

・プレショットルーティンにゆっくりとした呼吸を組み込むことは、心身を落ち着かせる有効な手段になり得ます。

  • ただし、プレッシャー下では自信が低下することに加え方向性が乱れやすくなるため、呼吸法だけに頼らず、プレショットルーティン内に自信をつけるために有効な自己暗示や自己対話を採用することで対処できます。
  • 自己暗示:アファメーション (Affirmation)や、自己対話:セルフトーク (Self-talk)は、プレーヤー自身が考えた言葉を採用することで実行力と効果を高めることができます(自己決定理論)。
  1. Kim, S.E., Pham, N.S., Park, J.H. et al.(2022). Potential biomechanical risk factors on developing lead knee osteoarthritis in the golf swing. Scientific Reports 12, 22653.
  2. 椿原徹也、鈴木タケル.(2025年11月15日).ドライバーにおける通常スタンスと狭いスタンスの弾道比較.日本ゴルフ学会第35回大会発表抄録集,pp. 36–37.日本ゴルフ学会.