#57『ゴルフとAIに関する研究』
人工知能(AI)は、いまや私たちの生活のあらゆる場面に入り込んでいます。
文章や画像をつくる生成AI、医療画像からの病変の発見、自動車の運転支援、天気予報の精度向上など、その用途は年々広がっています。
スポーツの世界も例外ではなく、判定の支援、選手の動作解析、対戦相手の戦術分析などにAIが使われるようになりました。
ゴルフでも同様にスマートフォンでスイングを撮影すると自動でフォームを診断してくれるアプリ、クラブに取り付ける小型センサー、弾道を計測する機器など、私たちがすでに手にしている道具の多くに、その背後でAIが働いています。
こうした製品の土台には、世界各国の研究者が積み重ねてきた学術研究があります。
今回は、ゴルフとAIを同時に扱った学術論文を調査し、そのうちスイングやボール弾道に直接かかわる3つの分野を取り上げて紹介します。
1 スイングの動画解析
最も研究が厚いのがこの分野です。
普通のカメラで撮った映像から、AIが関節の位置を読み取り、フォームを自動で評価します。
高価なモーションキャプチャ装置がなくても解析ができるようになった点が、この分野の大きな成果です。

用語の説明
- ニューラルネットワーク:脳の神経細胞のつながりをまねた計算のしくみ。ここから派生したのが以下のCNNやLSTMです。
- CNN(畳み込みニューラルネットワーク):画像から「見分けるポイント」をAI自身が探し出す仕組み。人が「肩を見なさい」と教えなくても、大量の映像から自力で学びます。
- LSTM(長短期記憶):時間の流れをもつデータを、前後のつながりを覚えながら処理するAI。動きの連続であるスイングと相性が良い手法です。
- 双方向LSTM:映像を先頭から末尾へだけでなく、末尾から先頭へも見るLSTM。インパクトの情報も踏まえてトップの位置を判断できるため、精度が上がります。
- 注意機構:データのどこが重要かをAI自身に重みづけさせるしくみ。近年の主流技術です。 ・姿勢推定:映像から関節の位置を割り出す技術。骨格を棒人間のように取り出します。
引用文献
- McNally, W., Vats, K., Pinto, T., Dulhanty, C., McPhee, J., & Wong, A. (2019). GolfDB: A video database for golf swing sequencing. Proceedings of the IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition Workshops, 2553-2562.
- Liao, C.-C., Hwang, D.-H., & Koike, H. (2022). AI Golf: Golf swing analysis tool for self-training. IEEE Access, 10, 106286-106295.
- Zhang, Y., Wang, Q., Tu, F., & Wang, Z. (2022). Automatic moving pose grading for golf swing in sports. 2022 IEEE International Conference on Image Processing (ICIP), 41-45. https://doi.org/10.1109/ICIP46576.2022.9897609
- Lee, M.-H., Zhang, Y.-C., Wu, K.-R., & Tseng, Y.-C. (2025). GolfPose: From regular posture to golf swing posture. In Pattern Recognition: ICPR 2024 (Lecture Notes in Computer Science, Vol. 15321, pp. 387-402). Springer. https://doi.org/10.1007/978-3-031-78305-0_25
- Feng, C., Bacic, B., & Li, W. (2025). SCA-LSTM: A deep learning approach to golf swing analysis and performance enhancement. In Neural Information Processing: ICONIP 2024 (Lecture Notes in Computer Science, Vol. 15296, pp. 72-86). Springer. https://doi.org/10.1007/978-981-96-6606-5_6
2 センサーでのスイング解析
クラブや体に取り付けた小型センサーの信号を、AIが読み取る研究です。
カメラが使えない場所でも計測でき、装置も安価で済みます。
近年は、腕時計型の機器1つだけでスイング全体を把握しようという方向に進んでいます。

用語の説明
- CNN、LSTM、双方向LSTM:表1の用語の説明をご参照ください。センサーの波形も画像と同じように「形」として読み取れるため、同じ技術が使えます。
- IMU(慣性計測装置):加速度と回転の速さを測る小型センサー。スマートフォンや腕時計型端末にも入っている部品です。
- 8チャンネル:センサーが同時に出力する8種類の信号のこと。シャフトのしなり、加速度、回転をそれぞれ複数の方向で測っています。
引用文献
- Jiao, L., Bie, R., Wu, H., Wei, Y., Ma, J., Umek, A., & Kos, A. (2018). Golf swing classification with multiple deep convolutional neural networks. International Journal of Distributed Sensor Networks, 14(10). https://doi.org/10.1177/1550147718802186
- Kim, M., & Park, S. (2020). Golf swing segmentation from a single IMU using machine learning. Sensors, 20(16), 4466. https://doi.org/10.3390/s20164466
- Kim, M., & Park, S. (2024). Enhancing accuracy and convenience of golf swing tracking with a wrist-worn single inertial sensor. Scientific Reports, 14, 9201. https://doi.org/10.1038/s41598-024-59949-w
3 ボールの弾道予測
スイングと球筋を数値で結びつける分野です。
「なぜスライスしたのか」という、ゴルファーがいちばん知りたい問いに直接こたえようとする研究であり、近年もっとも動きが活発な領域といえます。

用語の説明
- ニューラルネットワーク:表1の用語の説明をご参照ください。
- 物理式に埋め込む(物理情報つき深層学習):ボールの飛び方の物理法則はすでに分かっているため、その計算式のなかの「空気の影響」の部分だけをAIに学ばせる方式。少ないデータでも予測が外れにくくなります。
- 解釈可能なAI:予測の結果だけでなく、「なぜそう判断したのか」を人間が読める形で示すAI。コーチングの場面では、この説明する力が精度と同じくらい重要になります。
引用文献
- Bacic, B. (2016). Predicting golf ball trajectories from swing plane: An artificial neural networks approach. Expert Systems with Applications, 65, 423-438. https://doi.org/10.1016/j.eswa.2016.07.014
- McNally, W., Lambeth, J., & Brekke, D. (2023). Combining physics and deep learning models to simulate the flight of a golf ball. Proceedings of the IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition Workshops, 5119-5128.
- Jung, S., Hong, S., Jeong, J., Jeong, S., Choi, J., Kim, H., & Lee, W. (2025). CaddieSet: A golf swing dataset with human joint features and ball information. Proceedings of the IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition Workshops (CVSports), 5978-5986. https://doi.org/10.1109/CVPRW67362.2025.00596
まとめと今後の展望
研究の流れ
今回調査した論文を年代順に眺めると、はっきりとした変化が見えてきます。
2016年ごろは、比較的単純なニューラルネットにスイングの数値を学習させ、球筋を分類する段階でした。
2018年前後から画像を扱うCNNがセンサー信号の解析に導入され、2019年に1,400本のスイング動画を集めた公開データベースが登場すると、普通のビデオ映像からスイングを解析する研究が一気に増えます。
近年では、市販のカメラ1台で3次元の骨格を推定できるところまで進み、さらに「なぜその球筋になったのか」を人間に説明できるAIが現れました。
流れをひとことで言えば、高価な専用機器から手元のスマートフォンへ、そして「良い・悪いの判定」から「理由の説明」へ、という二つの方向への進化です。
運動学習の観点からの懸念
#34で、運動学習における伝統的アプローチと制約主導アプローチという2つの方法を紹介しました。
AIとの関係で考えると、現在のゴルフAIの多くは、伝統的アプローチと相性の良いつくりになっています。
プロのスイングをお手本として学習者との差分を示す、8つの局面ごとに関節の角度を数値で出す、といった機能は、いずれも模範モデルへの近づけ方を示す道具だからです。
しかし、制約主導アプローチが重視する個人・環境・課題の相互作用や、練習における動きの変動量といった要素は、現在のAIではほとんど扱えていません。
むしろAIに頼るほど、「唯一の正解フォーム」へ全員を近づける画一的な指導に傾く危険があります。
AIが出す客観的な数値を、目の前の学習者が抱える制約に合わせて翻訳し、練習課題に落とし込むこと、この部分は当面、指導者の仕事として残り続けると考えられます。