記事を探す
閉じる

鈴木タケル

#30『【風の影響】追い風と向かい風について』

ゴルフでは、ラウンド時間が約4時間に及び、屋外でおこなわれるため天候の影響を大きく受けます。
イギリスの気象学者John Thornes氏は論文の中で、ゴルフについて「ウェザーアドバンテージスポーツ」として、天候の「不平等な干渉」を受けるスポーツと説明しています(引用1)。
また、天候の中でも風は、ゴルフにとって最も難易度をあげる要素といわれ、#29で紹介したマスターズと天候の影響について調査された論文でも風の影響が大きいことを明らかにしています(引用2)。
2024年のマスターズでは、1日目と2日目には風が強く吹き、午前と午後ではコースの難易度にかなりの差があったと推測され、大会を通して風が強く、最終的にもアンダーパーで終了した選手は僅か8人でした。
今回は、風についての知識を広め、追い風と向かい風の影響について数学的な手法から弾道シミュレーションをおこなったインドの研究グループのプロシーディング論文を紹介します(引用3)。

大気境界層とは、地上から1~2㎞の高度であり、さらに上は自由大気として分けられています。
ゴルフボールが影響を受けるのは地表面に近い接地境界層及びキャノピー層と呼ばれる低い高度の風です。
気象庁が発表する代表風速を観測する高度は、基本的には地上10mとされています。
しかしながら、場所によりそれより低い高度、または高い高度に風速計を設置することもあります。
最も地上付近に近いキャノピー層では、都市ビル群や植生群の影響を受けて風速や風向きは局所ごとに大きく変化し複雑になるため、地上の代表風速は、キャノピー層よりも高い高度で観測することになっています(引用4、図1)。
競技ゴルフの世界では、大会前日または、それよりも前にコース内で吹く風の強さや風の向きについて、気象予測アプリなどを活用して対策を講じています。
代表風速を予測する地点とキャノピー層内にあるゴルフコースでは、予測代表風速とは違う風が吹くホールも存在するため、練習ラウンドでの確認が必要になります。
キャノピー(Canopy)とは、傘や屋根の意味もあり、コース内がその傘の影響をどの程度受けるのかを見極めることが大切です。
地形や樹木の高さなどにより単純な代表風速を読めばよいコースとそうではないコースもあり、風の中でのプレーを複雑にしています。

図1 大気境界層の概略図(引用4より作図改変)

インドの研究グループの調査では、風速10m/sの追い風(Tailwind)と向かい風(Headwind)を想定しています。
ドライバーショットは、ボール初速74.7m/s、打ち出し角度10.9°、スピン量は2686rpm、無風(NO wind)状態では、約240m(262ヤード)のキャリー距離に設定されました。
追い風では、飛距離が約260m(284ヤード)と約22ヤードの飛距離の増加がみられました。
向かい風では、約190m(208ヤード)となり無風状態と比較して54ヤードも飛距離が減少する結果となっています(図2)。

図2 風速10m/sでの追い風と向かい風のドライバーショット(引用3より転載)

アイアンショットでは、ボール初速53.6m/s、打ち出し角度16.3°、スピン量7097rpm、無風状態ではキャリー飛距離が約150m(164ヤード)に設定されました。
追い風では、約170m(186ヤード)と22ヤードの飛距離の増加がみられます。
向かい風では、約100m(110ヤード)と54ヤードも飛距離が減少することをシミュレーション結果として示しています(図3)。

図3 風速10m/sでの追い風と向かい風のアイアンショット(引用3より転載)

実際の地表面では、樹木や構造物の影響で凸凹が存在する為、どの高度でも一様(恒常的)に同じ風速が吹くことはありません。
このような地表面に近い凸凹のことを気象学では、幾何学的粗度といい、海面など遮るものがない状態と樹木に囲まれた山林などで分けて風の強さは計算されます。
この実験のConstantでは、粗度を無視してどの高度でも同じ10m/sの風を吹かせることを想定してシミュレーションされています。
一方で、Logarithmicでは、粗度を一般的なゴルフ場環境で計算しています。
高度10mの高さで10m/sの風が吹く設定のため、10m以下の高度ではそれ以下の弱い風が吹き、逆に10m以上の高度ではそれ以上の強い風が吹くことが想定され計算されています。
そのため、ドライバーとアイアンの両方で30m以上までボールが上がっていることが確認され、強い風の影響を受けるためLogarithmicの向かい風では、飛距離への影響がより大きく距離が減少する結果となっています。
この研究グループは、当然ながらLogarithmicのシミュレーション結果が実際のゴルフ場でおこる結果を正確に予測していると主張しています。

10m/sという風の強さは気象庁の示す目安では「やや強い風」となっています。
ビューフォート風力階級では、詳しく風の程度が示され、10m/sの風は、疾風(Fresh breeze)と表現され、葉のある灌木が揺れはじめ、池の水面に波頭がたつ程度とされています。
弾道シミュレーション結果から、ドライバー、アイアンの双方で追い風よりも向かい風の影響が大きいことがわかります。
また、ボールの最高到達点が追い風では低く、向かい風では高くなること、それに関連して地面へのボール着地角度が追い風では緩やかになり向かい風では急になっています。そのため、高さにより障害を避ける場合やグリーンに着地してからのボールの止まり方に差異が生じるため、事前に考慮することが必要となります。

  1. Thornes JE (1977) The effect of weather on sport. Weather, 32(7): 258–268. https://rmets.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/j.1477-8696.1977.tb04568.x
  2. Jowett H, Phillips ID (2023) The effect of weather conditions on scores at the United States Masters golf tournament. Int J Biometeorol 67(11): 1897-1911. http://dx.doi.org/10.1007/s00484-023-02549-6
  3. Malik S, Ranjan S, Saha S. (2018) Effect of Wind on the Trajectory of Approach Shots in Golf. Proceedings of the 7th International and 45th National Conference on Fluid Mechanics and Fluid Power (FMFP)December 10-12, 2018, IIT Bombay, Mumbai, India
  4. 近藤純正(1999)大気境界層の風(Ⅰ)風はどのように吹くか 日本気象学会機関誌「天気」1999年46巻pp584~594